70歳をすぎてからレストランを開店 Vol.2 桜井莞子さん
「ごはんやパロル」の賄いはスタッフと一緒に。食べながら本当によく笑い、よくしゃべる。世代はバラバラだが、話も舌も合う3人。
私の舌と合う人が
自分の舌と合う人を連れてくる。
そんなふうにつながっていく
”舌の流れ”を信じています。
そこですぐに「えいやっ!」と
思い切って行動に移してしまうのが
桜井さんのすごいところです。
「だって、迷っても悩んでも、
行動しなければ物事は前に進みませんよね。
何かを始めるときは、先のことは考えない。
勘で一歩を踏み出します。
動いて何かにぶつからない限り、
次の扉は開かないわけだから」
食器棚に無造作に重ねられた黒田泰蔵さんの白磁。「器はほとんど泰蔵さんの白。見た目も美しく、シャープな印象ですが、料理を盛り付けてみると、とても温かみがあって、料理が映えます」
お店を開いて2年。
いつも満席で賑わう店内と、
あっけらかんとした桜井さんの表情を見るにつけ、
さぞかしお店は順調なのかと思いきや、
意外な答えが返ってきました。
「お客さまがひと組だけの日もありますよ。
忙しい日は何組もお断りするけれど、
暇なときは電話がリンとすら鳴りません(笑)。
お店って本当に難しくて大変。
この年にして、まさかの計算違いです。
でもね、人生なんてそんなことばかり。
それでも楽しく気持ちよく
働ければそれでじゅうぶん。
私の舌に合う人が、食べに来てくれれば
それでいいんです。
昔馴染みや西麻布時代のお客さまが
また来てくださったり、
誰かが連れてきた人がまた人を連れてきて、
その人がまた人を連れてきて、
どんどんお客さまが広がっていく。
そしてある日、別ルートで来た方が、
また別ルートのお客さまと
繋がっていたりするからおもしろい。
それってまさに舌の合う人は繋がっているということ。
“舌の流れ”ですよね」
人は食べることで繋がっている。
自分の舌を信じて貫けば、
必ずそれを“おいしい”と感じる人が来てくれる。
そう桜井さんは確信しています。
自分にとっての“おいしい”って何なのか、
改めて自分の舌を見つめ直してみたくなりました。
text:和田紀子 photo:中川正子
『暮らしのおへそ』Vol.22より
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OPEN 18:00~22:00(L.O)
土日祝休
Profile
桜井莞子
デザイン会社に勤務の後、1988年にケータリングの仕事をスタート。「グッチ」や「イッセイ・ミヤケ」などファッションブランドをはじめ、多くの会社から依頼を受ける。1994年に東京・西麻布に「ごはんやパロル」を開くが、2004年に伊豆に転居。料理教室を主宰する。2014年に再び東京・青山にお店を開く。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。