繊細な糸で綴る可憐なアクセサリー~「väli(ワリ)」水野久美子さん(後編)

”つくる人”を訪ねて
2017.03.17

『ナリュリラ』本誌でモデルとしてもご登場くださっている、アクセサリー作家の水野久美子さん。色糸を使って作り出される美しいアクセサリーのお話、つづきです。

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Photo:有賀 傑 text:田中のり子


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通っていた専門学校には海外との交換留学制度があり、水野さんが行くことになったのは、エストニアでした。当時のエストニアは、ロシアから独立してまだ19年ほどの年月が経過したばかり。あまりにも情報が少なく、元共産主義国ということもあって、訪れる前は少し怖いイメージを持っていたという水野さん。けれどもその3か月の留学体験を通して、緑豊かで温かな手仕事が残る北国の魅力にすっかり魅せられてしまったのです。以来、毎年のようにこの国を訪れることが、ライフワークともいえる恒例のお楽しみになりました。ちなみに屋号の「väli(ワリ)」は、エストニア語で「空間・領域」という意味があるそう。

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こちらは専門学校在学中に、初めてニットで制作したアクセサリー。エストニアで拾った松の枝と実の様子を眺め「これを表現したいな」「これで身につけるものをつくってみたいな」と、空想の翼を広げて編み上げたもの。

最初はネックレス、次にピアス。少しずつ自分らしい技法を確立していき、友人の合同展示会の作り手のブースの一角を借りるなどして、作品を発表していくようになりました。それが有名店のバイヤーの目に留まり、いくつか取り引き先が決まって。気づけばトントン拍子に「作家」への道へと進んできたようですが、その裏には、水野さんのものづくりへの真摯な姿勢がありました。

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こちらは水野さんが大切にしているエストニアのハンドメイドの手袋。水色のミトンをひっくり返すと、防寒のためか、無数の白いボアが編み込まれています。外からは見えない部分ですが、そんなところにも決して手を抜かず、美しく編み上げられています。水野さんは、こうした作り手の細やかな心遣いに強く心を動かされ、手にするたびに自分もまた「誰も気づかなくても、細部まで手を抜かないものづくりをしたい」との思いを新たにしているそうです。

緻密で根気のいる作業の連続なのに「まったく苦にならない」と笑う水野さん。アクセサリー制作というと、デザインだけ行って、実作業は外注に出す人も少なくない世界ですが、そういった考えは一切なく、すべて自ら手を動かし、身の丈に合った制作数で、細くとも長く長く、この仕事を続けたいと考えているそう。

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アクセサリーはどれも、「自分が身につけてみたいもの」という発想から出発しているという水野さん。

「実は私、学校に通う前には、ほとんどアクセサリーもつけない無頓着な女だったんです(笑)。そんな自分でも、いやそんな自分だったからこそ『やっぱりアクセサリーをつけると嬉しいな』『気分が上がるな』というのがよく分かるんです。だから私の作品は『アクセサリーが少し苦手な人にも使いやすい』と言っていただくことが多いのかもしれません」

普段アクセサリーをつけ慣れていない人、子育てなどでしばらくアクセサリーから離れていた人。そんな人々でも、心地よく楽しんで身につけてほしい。そんな思いから、アクセサリー自体が重たくならないよう、手入れがしやすいよう、そして何よりも美しいデザインであるよう。多くの試作を重ね、「これ」という一品を水野さんは今日も作り続けているのです。

Profile

水野久美子(みずの・くみこ)

会社員などを経て、ジュエリー専門学校「ヒコみづの」卒業後、2012年よりアクセサリー作家としての活動をスタート。2017年3月18~25日の日程で、神奈川県横浜市のセレクトショップ「アナベル」で開催される三人展「アイとサクラ」に参加予定。http://vali9.com/

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