ジュエリー作家、アーティスト・鈴木仁子さん 白磁のアクセサリー(前編) ~「はかなさ」を愛おしく形にとどめる

”つくる人”を訪ねて
2016.06.16

雑貨からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載、今月は、白磁でアクセサリーをつくる、ジュエリー作家でアーティストの鈴木仁子(きみこ)さんのアトリエにお邪魔しました。

 

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Photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

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白磁といえば、真っ先に思い浮かべるのは食器類ですが、鈴木さんの手掛けるのはピアスやネックレス、ブローチといったアクセサリー。どれもとても繊細で、それでいて凛とした、独特の雰囲気を持っています。

 

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「ドローイングレース(Drawing Lace)」と名づけられたシリーズは、ペースト状の磁土(磁器の材料となる粘土)を絞り出して形にし、レース模様を描いて焼いたもの。まるでアンティークレースの一部を切り取ったかのように見えます。

 

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「お菓子のアイシングからヒントを得ました。陶芸には『イッチン』と呼ばれる、チューブやスポイトに泥漿(粘土や磁土を水で溶いたもの)や釉薬を入れ、器面に絞り出して絵や模様を描く技法があるのですが、その絵の部分のみを取り出したかんじでしょうか」

1㎜よりも細い絞り口から少しずつ磁土を絞り出し、細やかな手つきで、レース模様を描きます。一般的な器作りでは、成形したあとに乾燥の時間をしばらくとりますが、この技法では描いたそばから乾燥していくので、ちょっとの衝撃ですぐに崩れてしまいます。焼成の温度や時間などの試行錯誤を重ねて、何とか作品としての強度を保てるようになりました。まったくの鈴木さんオリジナルの技法です。

 

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こちらは「モールド(Mold)」という型もののシリーズ。鳥や花のモチーフを、鈴木さんならではの感性でデザイン化し、金糸をアクセントにするなどの手仕事を加えています。手のひらにすっぽり収まるような、小ぶりなサイズですが、実に細やかな意匠に引き込まれます。色がないことで、造形の美しさがいっそう際立つようです。

 

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型ものの制作というと、型に粘土を押しつけて成形するイメージですが、こちらもペースト状の磁土を使います。乾くのにも時間がかかり、手間もかかりますが、細やかな凹凸をきちんと再現するのには、このほうがよいのだとか。乾燥が終わり、石膏型から外したら、削ったり、やすりをかけたりして形を整え、素焼き、そして本焼きを。すべての作業をひとりで行っているため、どうしても作れる数も限られてしまいます。

 

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棚に並んだ石膏型自体も、それ自体が作品のような、美しい佇まい。

 

陶器より固い磁器とはいえ、やはり落としたら壊れてしまいます。お客さまからも「割れてしまうのでは?」との質問を受けることも少なくありません。けれどその「繊細さ」をネガティブなことととらえず「壊れやすいからこそ、大切に扱える」と鈴木さん。

「割れてしまうからといって、子どもにプラスチックの器だけを使わせるのではなくて、『粗末に扱えば、割れてしまうものなのよ』と伝えながら、本物の陶磁器にふれさせるほうが、私は好きなんです。割れてしまったらショックだけど、そのことで『永遠に手元にあるものではなかったんだ』と気づけば、ものへの接し方も変わる。大切に扱うようになる気がして」

 

アクセサリーも繊細であれば、それを身につけることで背筋が伸び、ふとした仕草も変化していきます。使う人の意識やふるまいに変化が訪れて、小さくても豊かな「気づき」をもたらす。鈴木さんの作品は、装いを彩るアクセサリーでありながら、その人の日常に寄り添う「アート」でもあるのです。

 

“つくる人”を訪ねて ジュエリー作家、アーティスト・鈴木仁子さん 白磁のアクセサリー 後編につづきます

 

 


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Profile

鈴木仁子

すずき・きみこ

多摩美術大学美術学部工芸学科陶プログラム卒業。繊維製品の品質検査機関勤務を経て、2011年より白磁のアクセサリーを発表。個展・グループ展などを中心に、作品を発表している。

2016年6月25日(土)26日(日)に、東京・西荻窪の「ギャラリーみずのそら」で開催される「アーテセン3周年記念イベント“Un Doe Trois”」に参加する予定。

http://kimikosuzuki.com/

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