大森伃佑子さん【前編】「スタイリングクレジットは、私からのラブレター」

”オリーブ少女”の先輩に会いに行く
2016.06.26

そばかすがチャームポイントになることも、かごのかわいさも、公園で食べるサンドイッチのおいしさも。大事なことはみんなオリーブに教わった。80年代、90年代、少女たちに熱狂的に支持された雑誌『オリーブ』。その熱狂をつくり出していた、素敵な先輩を訪ねます。

text:鈴木麻子


『オリーブ』のファッションページが見せてくれる景色は、いつだって特別で、新鮮で、まぶしくて。ページをめくっている時だけは、のっぺりとした日々を送る16歳の私をセンチメンタルな場所に連れて行ってくれるのでした。それは、物語であり、一片の詩であり、短編映画のようでもあり……。とにかく、熱くてたっぷりとしたメッセージが込められていたのです。そのなかでもひと際、メラメラと熱い乙女の炎を燃やし続けていたのが、スタイリスト・大森伃佑子(ようこ)さんではないでしょうか。

「それはもう、暑苦しいほどで(笑)」
ふふふと笑う、その可憐さはロマンチックそのもの。刺繍が贅沢に入った黒のワンピースをまとい、トレードマークの「おかっぱ」頭にシルクの大きなリボンをつけたそのお姿は、「オリーブ少女」が思い描く「大森伃佑子」さんそのものです。

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可憐で華奢で、小鳥のような佇まいの大森さん。ワンピースは「トワヴァーズ」のもの。上の壁飾りは「お誕生日のときに飾ったままなの」だそう。

レース、刺繍、かご、真珠、バレエシューズ……。少女の憧れをありったけ詰め込んだスタイリングは、細部にまで「大森スピリット」が込められていて、オリーブ読者ならだれしもが一目で「大森さんのページだ」とわかる、独特な匂いを持っているのでした。

「チノパンやデニム、ボーダーシャツのコーディネート、など自分の表現には出てこないアイテムが、編集部からのお題に盛り込まれることもしょっちゅうありました。そんなときは、デニムとGジャンを着せなきゃいけないなら『花をのせさせて』って、頭に花をのたスタイリングにしていましたね。デニムなんだけど、ワンストラップの靴をはかせたり」

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唯一持っているというバスクシャツ。「すごく昔に買ったもので、クローゼットの中で眠っていたのですが、最近、引っ張り出してきたんです」

海でのロケは、『オリーブ』の定番中の定番ですが、大森さんは一度も経験したことがないといいます。

「海でデニムを着て裸足で走るなんて……。『お願いだから、靴をはかせて!』って。黒いエナメルの靴をスタイリングしたいから海には行かないの。それから、走ると服の形が崩れるから、正面からしか撮りません、みたいなこだわりもあって」

制限の中でのスタイルでこそ、成長をしてきたと振り返ります。「お題があるほうが、縛りがあるほうが人は知恵をしぼって工夫をしますよね。『オリーブ』は外でしか撮影しちゃいけないルールが一時あったから、どこか素敵な撮影場所はないかっていつも探していたし。でも私は海にいけないから(笑)。模索しているなかで、あ、私は街が好きなんだなって思いましたね。だから、街に似合う服をつくりたいんだなと思って。そのなかで頭にお花をのせたり、手袋をしたりするのは、ファッションとして面白いんじゃないかなと思っていました」
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「ベルレッタ」などの、麦わら帽子コレクション(の一部)。「帽子ってある日突然、いままで似合っていたものがしっくりこなくなるのよね」と言いつつ、どれもみんなお似合い。

『オリーブ』のバックナンバーをずらっと並べ、大森さんのページを開くと、気づくことがあります。それは、商品クレジットの長さ。

「それは、かわいいものをたくさん紹介したくて、いっぱい商品を借りちゃうからなんですね。いまだったら、物撮りをたくさんやれば情報が増えていいと思うんだけど、そうじゃなくて、当時はスタイリングしたモデル写真一枚に思いを込めていました」

一枚の写真のなかにひとつでも気に入ったものが見つかったら、読者はクレジットを辿る。そして、どんなお店なのかな? と考える。電話をして場所を聞いて(ときは、スマホのない時代)、お店まで行く人もいるかもしれない。たとえばアンティークの着け襟だったら、行ったときにはもう無いことも……。

「でも、そこに行ってお店の人と話したら、気持ちがいいかもしれないし、ほかのかわいいものとの出会いがあるかもしれない。そんな色々を考えながらお洋服を選んでいました。なんでもいい一個じゃないんです。このお店だから、商品を借りましたっていう意味をちゃんと一個ずつ付けていたんです」

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仕事部屋に並ぶかごたち。上段にあるルイ・ヴィトンの帽子ケースは、気に入って思わず買ったけれど「じつは一度も使っていないの」

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リビングの棚には、友人たちから贈られたお気に入りを飾って。どれも思い出がいっぱい

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「オリーブ」の仲間たちと訪れたロンドンの「J&Mデヴィッドソン」のショップで見つけたクッションカバー。

 

「クレジットは、私からの読者へのラブレター。『このお店は行ってみる価値があるよ』『このブランドは知っておくといいと思うよ』『こんな作り手の人がこういう場所で物を作っているのよ』とか。そんなメッセージを込めました。素敵なものをただ紹介するんじゃなくて、その素敵なものの奥にはちゃんと理由があって景色があるということを伝えたかったのかな。それって雑誌ならではのこと。『オリーブ』をつくっているときは、雑誌が面白い時代だったんですよね」

最後に質問。いい時代に『オリーブ』をつくっていたことは、幸せだったと思いますか?
「………。それは、語り尽くせないですよ。もうね、私の、青春、だった」

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収納スペースには「オリーブ」のバックナンバーがぎっしり。「昨年、25年ぶりの引っ越しをしていろいろ処分したけれど、これは捨てられなかったー」

→後編へ続きます

 

第1回 大橋利枝子さんはこちらから

第2回 堀井和子さんはこちらから

第3回 山下りかさんはこちらから

第4回 湯沢薫さんはこちらから

「DOUBLE MAISON」京都期間限定SHOP

期間:6月3日(金)~7月31日(日)
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営業時間:12:00~20:00
定休日:水・木曜日
お問い合わせ:TEL 080-7760-8833

Profile

大森伃佑子

Yoko Omori

雑誌『オリーブ』でスタイリストとして活躍。その後、様々なアーティストのスタイリングやCMを手がけるほか、『装苑』で連載をもつ。2012年には「DOUBLE MAISON(ドゥーブルメゾン)」を立ち上げ、ディレクションを務める。着物と洋服を「身につけるもの」という大きな視点でひとつのものと捉え、従来のルールに制約されないかわいいコーディネートを提案している。この夏には、2か月間限定で京都にショップをオープン。浴衣を中心に、ドゥーブルメゾンの世界観が存分に楽しめる。

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