新刊『見た目を、整える』 巻頭スペシャル対談 ジェーン・スーさん×長田杏奈さん Vol.2

『見た目を、整える』
2020.06.02

←Vol.1はこちらから

昔からメイクが大好き。
美容は自分の気持ちを上げるため。
コスプレ的な擬態は楽しい。
(ジェーン・スーさん)


美容は自尊心を育む生活習慣。
自分を愛して表現することを肌身で覚えさせることができる。
(長田杏奈さん)


 誰の顔色もうかがわず、「自分全開!」でメイクを楽しんでるスーさんに比べて、私は今、自分の顔の可能性を試すのをさぼっているかも。

 波は誰にだってあります。美容って自分の気持ちが上がらない限りやらないし、自分の気持ちを上げるためにやっているのに、はたからいい悪いを言われるから腹が立つ。

 ホント、そうですよね。私も人によく見られたいと思って美容をやってるわけじゃない。自分の肌をやさしく慈しみ、心から美しい&心地よいと思える化粧品を塗って一体化し、見た目を整えて気分に合わせてカスタマイズする。そうやって自分を愛して表現することを肌身で覚えさせることができる美容は、自尊心を育む生活習慣だと思うから。

 美容と自尊心の高まりは、間違いなくリンクしていると思う。

 みんながみんな美容をやれば自尊感情が高まるとは言えないけれど、そういう美容もあっていい。私はもともと自尊心が高いほうではなく、「私なんて」とか「自分には価値がない」と思ってしまいがちなタイプ。仕事をしながら2人の子どもをワンオペで育て、自分の時間をすべて捧げて力尽きたとき、自分のことをあと回しにするのはもうやめて、ちゃんと日焼け止めを塗って、スキンケアもメイクもして、自分をやさしく大切に扱おうと決めた。そうやって美容の力を借りながら、自尊心が高まっていくことを実感したんです。

 私は昔、一世一代の大失恋をしてボロボロになったとき、ネイルサロンに行ったら、「女の悩みなんてお金で解決できないことはひとつもないんですよ」とネイリストさんに言われて、神かと思いました。誰かに大切に扱われて爪をきれいにしてもらうと、気持ちは確実に上がる。そうやってお金を使って自分の気持ちを一瞬上げられる美容というのは、自分の力で階段を上がるのはちょっと難しいときの補助台くらいにはなってくれる。

 美容のいいところは、自分の気分が上がるものと自分が一体化できること。服は自分とは別ものですが、イケてるリップを塗ると、イケてる自分になる。そういう上げ効果をすごく感じます。それが似合うとか似合わないとかではなく、ちょっとした意思表示であり自己表現。

:さっきのTPPOも、逆に言えば、こうすれば正解というのが明確に提示されていて、そのとおりにすれば相手が本当にそう見てくれるのだとしたら、すごくラクだと思う。人の目線を誘導できるわけだから。

:相手によってメイクを変えたりするんですか?

:メイクもそうだし、場合によっては態度も変える。私のことをやさしい人だねという人もいれば、辛辣だよねという人もいる。それでいいんです。「私らしさ」なんてものは相手が決めるもの。相手の受け取り方次第で「自分」は変わるものだから。

:私は「自分」というのがけっこう強固にあって、自分のなかに「真ん中の自分」がいる。それを強めたり弱めたりはするけれど、私自身は変わらないという感じがするなあ。

:それは人それぞれ。考え方は違っていいと思う。私にとって「自分」とか「私らしさ」というのは相対する人が決めるものだからこそ、メイクってすごく便利。「この人きつくなさそう」と思わせることができるわけだから、それができる性でよかったなと思いますね。

:確かにメイクにはコミュニケーション面みたいなものはあると思います。やりすぎるとTPPOみたいになってしまいますけど。

:主客転倒しないことですよね。TPPOが主になって、自分が客体化されるとすごくつらくなってしまうけど、自分が主となってプレイとして、いろんなメイクをしている分にはすごく楽しい。

:以前、心理学の専門家の方が「メイクは自分がこれからなりたい像の設計図になる」とおっしゃっていました。意志が強くなりたいときは意志の強い顔、やさしくなりたいときはやさしくなりたい顔を目指してメイクすると、自己暗示効果で振る舞いや言動が変わり、それによって人からの反応も変わる。自己暗示と他人からの反応の相乗効果で、そのうち顔に描いた設計図どおりの自分ができ上がっていくのだと。そもそもメイクの起源は呪術。自分にかけるおまじないですから。

:脳科学者の中野信子さんと対談したとき、「お化粧は悪い気が入っうにというお札貼りみたいなものだ」とおっしゃってました。

:そう、メイクは魔除けです。お前の機嫌はとらないぞっていう。


photo:枦木 功 text:和田紀子

『見た目を、整える』より

Profile

ジェーン・スー

1973年東京都生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める。近著『これでもいいのだ』(中央公論新社)他、著書多数。

 

長田杏奈

1977年神奈川県生まれ。ライター。女性誌やウェブで美容を中心にインタビューや海外セレブの記事も手がける。「花鳥風月lab」主宰。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)がある。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

ページトップ