夏バテ予防レシピも紹介! 料理家「あたらしい日常料理 ふじわら」藤原奈緒さん~普段のごはん作りに、小さな変化をもたらすきっかけを(後編)
家庭料理を簡単においしく! びん詰め調味料が人気の藤原さんのお話、後編です。
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Photo:有賀 傑 text:田中のり子
レシピご紹介の最後は、藤原さんが「夏バテの切り札」として、学生時代から作り続けている塩ゴーヤを。今回の食卓では、ゆでて包丁でたたいたモロヘイヤと合わせ、しょうゆと酒で味つけを。焼きなすやオクラを加えたり、卵かけごはんに載せたり、少しレモン汁を加え、水で割ってドリンクとして飲んだりと、幅広く活用できます。
材料(作りやすい分量)
ゴーヤ、塩…各適量
1ゴーヤは切らずに皮ごと緑の皮の部分をすりおろし(白いワタ、種などは入らないように注意。鬼おろしを使うと食感がまし、さらによい)、塩(おろしたゴーヤの3%程度の量)と混ぜる。
※保存瓶に入れ、冷蔵庫で約1週間保存可能。
母子家庭に育ち、子どもの頃から料理上手だった祖母の姿を見て料理を覚えたという藤原さん。「お米の味が変わったら文句を言ったり、納豆はどこそこのメーカーがおいしいとか、食べ物にうるさい嫌な子どもでしたね(笑)」
お母さまが外で働いていた関係で、自分自身は成長する過程で、なかなかゆったりとした団らんの時間を持つことができなかった。だからこそ、家庭での料理へのこだわりが強くなったかもしれないと、振り返ります。
そんな藤原さんを、一躍有名にしたのが、2013年から発売を始めた、このびん詰めたち。「おいしい唐辛子」「カレーのもと」「パクチーレモンオイル」「にんにくえび塩」の4種類。「あたらしい日常料理」の店内はもちろん、各地のショップやイベントなどでも販売され、人気を呼んでいます。
「料理教室はものすごく伝わる実感のある仕事ですが、いらしていただく方が限定されてしまうし、雑誌などの仕事も私が作った料理を実際に食べてもらえるわけではないでしょう。けれどもこういう瓶詰めなら、ある程度『この味だ』と分かってもらえるんだなと思って」
人は「おいしいもの」を親しい人と共有したいもの。常温で保存できるものなので、藤原さんが想像していた以上にびん詰めは旅をして、たくさんの方々の食卓で活用されました。小さなお子さんやご高齢の方がいる家庭は、どうしても味付けは薄味になってしまいますが、「おいしい唐辛子」や「カレーのもと」があれば、個別にスパイシーな味付けを楽しめます。時間がないときも、さっとゆでた野菜や焼いた肉などに「パクチーレモンオイル」や「にんにくえび塩」をパラリとふりかければ、あっという間に料理が一品完成してしまいます。
家庭で料理する人が少しでも楽になって、今日も明日もあさっても「またおいしい料理を作ろう」という原動力になれるもの。藤原さんのそんな思いが詰まった調味料たちなのです。
「一緒においしいものを囲むだけで、何だかその人と仲良くなったりするじゃないですか。他人と『同じ気持ちになった』ということって、実はなかなかないことだけど、『これ、おいしいね』と笑顔になるときは、それが一致していると思うんです。生きていると、本当にいろんな問題に直面しますけど、同じものを食べて『おいしい』と言い合えたり、自分の手でおいしいものを作れるということが自分を支えたりして、明日からも頑張る力になるんじゃないかと思うんですよね」
お店にイベントに、びん詰め作りにと、忙しい毎日を送っている藤原さん。休日前の夜、仕事を終えたあと、自宅でゆっくりお酒でも飲みながら本を読む時間が、何にも代えがたいリフレッシュになっているそう。料理の仕事をする上で、影響を受けた本3冊を紹介していただきました。
幸田文さん著『きもの』は、明治時代の終わりに東京の下町で生きる少女・るつ子が、着物を「着る」ことを通じて、たしなみや人づきあいの心得などを祖母に教わりながら、成長する姿を描いた小説。
「感覚が鋭すぎて生きづらい、私もそういう子どもでした。そういう部分も知恵があれば生かすことができることを教えてくれた本。自分を違う形に変えたりせずに、自分に合わせたやり方を見つけることで、きちんと生きる道が見えてくる……今でも読むたびに泣いてしまいます」
もう一冊は、水墨を用いた抽象画を発表している美術家・篠田桃紅さんの自伝『桃紅』。戦後間もなく、右も左も分からない状態から渡米し、ニューヨークで作品を発表する様子が、自由な言葉とともに綴られます。
「私が料理の仕事を始めた時期は、まだ女性がひとりで店をやることもめずらしく、家庭料理にアプローチしたいと思っても、テレビや雑誌に登場する限られた料理研究家以外に、何をどうやってできるか、道が見えませんでした。でもそんな中でも、手探りでも自分のやり方でやっていこうと背中を押された、きっかけとなった本の一冊です」
最後は向井麻衣さんの『美しい瞬間を生きる』。著者の向井さんは、ネパールでメイクアップを通じて女性の尊厳を取り戻す活動をする一方で、ヒマラヤ産の原料を使用した化粧品ブランド「ラリトプール」を展開する実業家。
「生まれてきて良かった、と思える『美しい瞬間』を作りたい、と様々な活動をされている方。私にとっての『おいしい』もそれなんだなと思うんです。世界を行き来して仕事をしながら、女性としての自分を大切にされているところも、すごく素敵な方だなぁと思います」
料理でも、好きな器を使ったり、季節感を取り入れたりすることは、もしかしたら不必要なものかもしれません。けれどその「豊かさ」が人の心を軽くして、その人を支えたり動かしたりする原動力になることも、きっとあるでしょう。心に作用する思いや豊かさを、改めて確認させてくれる本でもあったようです。
最後に、藤原さんの必殺(!)健康グッズをご紹介。それは何と、「青竹踏み」。高知・須崎市にある竹材専門店「竹虎」の「強力青竹踏み」は、スタッフからのプレゼントで、一般的な青竹踏みと比べてカーブが細く、足裏への刺激は強力。むくみに劇的に効果があるそう。立ち仕事の長い藤原さんにとって、なくてはならないアイテムなのだとか。
現在、お店を始めて1年半が経過しました。今年の春からびん詰めの生産量もふやし、教室やレシピ提案の仕事も少しずつ増えてきているそうです。より具体的に「伝える」仕事の幅が広がり、藤原さんの考える「食卓のしあわせ」も、より一歩、広がりを見せているようです。
Profile
藤原奈緒(ふじわら・なお)
北海道札幌生まれ。2004年より東京・小金井のカフェ「broom&bloom」にて、調理・ケータリングを担当。2006年、直売所に仕入れに行くことから始める「日常料理教室」を開講。2013年独立し、JR東小金井駅高架下「アトリエテンポ」内に「あたらしい日常料理 ふじわら」をオープン。さまざまな形で家庭料理に向けて提案を行う。http://nichijyoryori.com/
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