家庭の「薬局」として、はちみつを見つめ直す ~今月の先生:前田京子さん vol.3

からだ修行
2016.07.23

 

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photo:砂原 文 text:田中のり子


そばはちみつや栗はちみつといった、黒くてクセの強いはちみつを嫌ったり、はちみつを固まってしまうことをよしとしなかったり、巣の中でじっくり精製されるのを待てず、濃度を上げるために水あめなどの混ぜものをしたり、はちみつが固まってしまうことをよしとしなかったり。

さまざまな生産者・消費者の思惑や都合により、残念ながら、現在日本で出回っている「はちみつ」のほとんどが、精製・加糖・加熱などの加工が施されたもの。これらは純粋はちみつにあるような、目覚ましい効能は期待できないのです。はちみつを「薬」として使おうとするなら、天然の純粋な生はちみつを選ぶことが、基本中の基本なのです。

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「これはその他の食べ物と同じことなのだと思いますが、食べ手、選び手がしっかり品質を見極めて選び、積極的に『いいはちみつ=本物のはちみつ』を口にしていくこと。そうすることが、まわりまわって、本物のはちみつが手に入りやすい環境をつくっていくことにもつながると思いますよ」。

はちみつ専門店や薬局で売っているものは、確かに「純粋はちみつ」です。それ以外の場所で購入する場合は、「これは純粋はちみつですか?」「高熱処理していないものを探しているのですが」と確認することがポイントなのだそう。


前田さんの本『ひとさじのはちみつ』をパラパラとページをめくっていくと、最後にかなりの数の参考文献リスト。研究家体質な前田さん、掲載されているものの何倍もの文献をあたり、そして時には養蜂の現場を訪れ、はちみつへの見識を深めていったそうです。

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養蜂家、蜂蜜療法の専門家であり、同時に医師・医学博士である宇津田含氏の文章や、『青い鳥』で有名な詩人・戯曲家であり、養蜂家でもあったメーテルリンクの博物誌、マヌカハニーの威力を紹介した洋書、日本各地のミツバチの蜜源植物を紹介した図鑑などなど。自然農法のバイブルとして知られる福岡正信氏の『自然農法 わら一本の革命』は、1975年に発売された初版と、英語版のものがありました。

そんな前田さんの健康観に影響を与えた本として挙げてくださったのは、何とハワイのアンティークショップで見つけた、1910年代にアメリカの薬局で使われていたという処方箋集(写真下)。
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「ちょうど化学薬品が広く出始めた時期ですが、半分くらいは天然素材の薬の処方です。この中でも、はちみつはもちろん薬品。他にもはっか油など、植物の精油がいろんな場面で使われています。化学万能の時代の前に、『薬』というものがどんな風にとらえられていて、それがどのように変化していったかがよく分かり、現代の薬や健康について、考えるきっかけにもなった本です」。

もう1冊はナイチンゲールが記した『看護覚え書』(写真上)。世界中の看護師のための、古典中の古典です。

「病室をどう整えるか、換気や保温、寝具の選び方から部屋を清潔に保つ方法など、病気を治すため、健康であるための土台の部分を記した本です。病人にとって必要なことは、健康な人にとっても大切なこと。“家を整える”というと、インテリア的なアプローチだけでとらえられがちですが、身体が快適であるための空間づくりという視点が、あらためて重要だと気付かされた本です」。

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キッチンにずらりと並ぶ、前田さんのはちみつストック。これ以外にも、まだまだ秘蔵品があるそうです。「前田さんにとって『健康であること』は、どいういうことを指すのでしょう?」と質問すると、少し考えたあと、次のような言葉を返してくださいました。

「身体がどういう状態であっても、いる環境がどんな状況でも、へこたれない力が残っていることだと思います。病気になったからと言って人として健康でないわけではなくて、へこたれない部分さえあれば、それが健康なのではないかと。どうしてへこたれたくないかというと、やっぱり人生を、生きていることをよしとして楽しみたいからですね。私がはちみつの世界にのめり込んだのも、誰に頼まれたわけではなく、心から『楽しい!』『面白い!』と思ったからなんです」

「へこたれたくない」と思ったときに、「はちみつという素材の『励まし力』はすごい!」と、前田さん。「どんな状況であっても、この素材は絶対に頼れる味方。そんなすごい素材が身近にあるなんて、本当に幸せなことだと思いませんか?」

働きバチが一生のうちに集めるはちみつは、スプーンひとさじ分」と言われているそうです。その貴重なはちみつを、自然からのギフトとして、大切にいただく。前田さんのお話を聞いていると、そんな感謝の気持ちもきっと、身体と心の健やかさにつながっていくのではないか……と気づかせていただけた取材なのでした。

 

 

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Profile

前田京子

Kyoko Maeda

国際基督教大学教養学部、東京大学法学部卒業。『お風呂の愉しみ』『オリーブ石けん、マルセイユ石けんを作る』(ともに飛鳥新社)、『石けんのレシピ絵本』(主婦と生活社)、『はっか油の愉しみ』(マガジンハウス)など著書多数。現在『ひとさじのはちみつ』の続編を準備中。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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