第6回 昔働いていたカフェのスタッフ5人で囲む、新年会の水餃子

夏井景子さんの想い出の味
2021.04.27


22〜30歳まで働いていた渋谷のカフェ。今でこそ料理の仕事をしているし、製菓の専門学校で調理の授業は少なからずあったけれど、私がきちんと料理をしたのは、そこのお店がほぼ初めてだった。

じゃがいもは水から茹でることも、玄米の炊き方も、私はそこで習った。そのお店はオーガニック食品を使用していたり、動物性のものを使用せずに作るメニューも多くて、雰囲気もとてもおだやかで働いている人たちも優しくて、初めてお店に行った日から、「ここで働きたい!」と強く思ったことを覚えている。

それから何度も足を運んでは「スタッフ、募集してませんか?」といつも聞いて、「今は募集してないんですよ〜」と言われ、肩を落として帰るのを1年くらい続けていた。そうしたら街でたまたまそこの店長さんに会い、「今スタッフ募集してるけど、どう?」と言われ、即座に返事をして、私は無事にそのお店で働くことができた。今考えるととてもしつこいけれど、その根気がなかったら働けなかったし、まぁよしとしよう。

そこから7年働いた。最初のアルバイトの頃から店長になるまで、20代のほとんどをお店で過ごして、お店が移転するというタイミングで私はお店を辞めた。

お店というのはスタッフの入れ替わりも多いけれど、私の働いていたところは少人数だったり、学生さんはNGということもあり、店長になって最初の2年間は同じスタッフ5人で働いた。2年間全く人の入れ替わりがないカフェは、たぶん珍しい。いつ行ってもだいたいみんなの顔がわかるお店というのは、とても安心感がある。そんなあのお店とスタッフのみんなが、私はとても好きだったと思う。

その時のスタッフ5人で、毎年新年会をしている。もう10年近くも前に、たまたま一緒に2年間働いた5人。仲は良いけれど、日々グループLINEで連絡をとるような友達みたいな関係ではなく、私たちは今でも不思議と仕事仲間の距離感でいる。そんな5人で毎年、私の家で新年会をする。
新年会のメニューは、毎年決まって水餃子。いつからか毎年お鍋を囲んで、水餃子を食べながら新年会をするようになった。


水餃子のいいところ。
①準備が楽。
②具さえ作っておけば、みんなで話しながら包める。
③鍋にお湯を沸かせば、みんな自由に好きなだけ食べられる。
④一回休憩しても、茹でればまたすぐ食べられる。

そして、みんなでその時お気に入りの食べものを持参する。おやつやお漬けもの、果物などなど。食べることが好きな人たちとの情報交換は、とても楽しい。


1年ぶりの報告なので、しゃべることは尽きない。そして誰もお酒は強くないので、ずっとノンアルコール。ひたすらお茶やコーヒー。これは働いていた時から一緒。働いていた時も、仕事終わりに飲みに行くなんてことはほぼなく、ちょっと時間があったら余った玄米でおにぎりを作ったり、ケーキの端っこを食べながらお茶をした。

1年あれば、みんなそれぞれいろいろなことがある。住む場所が変わったり、一緒にいる人が変わったり、仕事を辞めたり始めたり。1年はあっという間だけれど、大きな変化が起こるには十分な時間だ。私たちは餃子を包みながら、茹でながら、食べながら、話をする。

思い出話というのは、何回話してもみんなで大爆笑できるし、辛かった思い出は、何回思い出しても「あれはひどかったね…」とゲンナリする。そして、みんなが作ったとっても美味しかったものを思い出しては、「あれ食べたいねぇ」と話す。

Uさんが作るレモンケーキ。Tさんの作るあおさのパン。Sさんの作るビーガンケーキ。Yさんの作ったラザニア。どれもお店とセットで思い出す、美味しくて大好きなものたち。どれも不思議と、その人らしいケーキや料理。

お店で働くよさのひとつは、自分だけでは考えつかないものや事を、みんなで共有してよいものができることだなぁと、お店を辞めた今つくづく思う。

2年前のお正月に私が大風邪をひいて、掃除や準備がままならず、新年会はどうしようとなった時があった。その年はみんな私の最寄りの駅まで来てくれて、美味しい水餃子のお店に行った。場所が変わっても、結局また水餃子を食べて、暗くなるまでお茶をして、恒例の記念撮影をして解散した。

今年はまだまだ新年会ができないまま、夏がきてしまいそう。みんな元気かな、集まれるようになったら、またみんなでお腹いっぱい水餃子を食べましょう。



【夏井景子さんの想い出の味⑤】はこちら

 

Profile

夏井景子
Keiko Natsui


1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。 
http://natsuikeiko.com   Instagram  natsuikeiko

 

 

 

 

 

 

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