第20回 ラーメンの思い出と昼寝

夏井景子さんの想い出の味
2022.06.23


ラーメンが好きだ。
忙しかったり、ごはんを作るのがめんどうな時はよくインスタントラーメンを作るので、常にストックしてある。お気に入りは生協の塩ラーメン。ノンフライなのでとても軽くて、一緒に小松菜やきのこやねぎも入れて、卵を落として食べる。お野菜も食べられるし、インスタントラーメンは重宝している。

最近は韓国のインスタントラーメンも、近くのスーパーでいろいろな種類があるので、たまに試したりして、インスタントラーメンは常にストックしてある。

思い起こせば、よくラーメンを食べる家だった。ラーメンを食べている記憶がちょこちょこある。
近くの公園へ向かう途中にあった小さな食堂で、よくラーメンを食べた。そこのお店は、お水のグラスは藤子不二雄先生のキャラクターが描かれたグラスで、おばちゃんがお水をくれる時にパーマンのグラスだとうれしかったのを覚えている。

たまに夜遅くに、屋台のラーメン屋さんが家の前を通る。おいしいと噂だったのか、母がチャルメラの音を聞いて急いで買いに行って食べた思い出。

近くの中華料理屋さんで、家族みんなでよく出前をとった。私のお気に入りは、麻婆ラーメン。「麻婆豆腐がラーメンにのっている…!」と、初めて見た時にびっくりした。
熱々の麻婆豆腐がのったラーメンは、とろみがあってとても熱い。フーフーしながら食べるのが大好きだった。アルミの出前箱から熱々のラーメンが出てきた時のうれしさったらない。ぴったりとラップがしてあって、輪ゴムでふちがとめられている。熱さでラップがぴっちりとしていて、そっと輪ゴムを外すのにドキドキしたのを覚えている。

出前をとる時のあの、誰が何を選ぶか聞くのも楽しかった。祖父母に父母、姉と妹、そして板前さんたちなど頼む量はたくさんで、誰が何を選ぶか聞いてメモをとるのも楽しかった。

もうひとつラーメンの思い出といえば、母の実家で祖母が頼んでくれる「横浜軒」というラーメン屋さんの出前だった。
横浜軒のラーメンは、昔ながらのシンプルな中華そば。丼に蒸した麺、なると、メンマ、チャーシュー、ねぎなどの具材がのったシンプルなもの。他のお店と違うのは、スープは別で、人数分をやかんに入れて届けてくれる。

ラーメンが到着したら、やかんのスープをそのまま温め直して、麺や具材の入った丼に入れる。少し置いて、お箸で麺をほぐして食べるというスタイルの出前ラーメンだった。

祖母の家に遊びに行って、お昼をどうしようかという話になると、よく横浜軒のラーメンをリクエストした。祖母が電話をかけて出前を頼む。私たち姉妹は、ラーメンが届くのを楽しみに待つ。

玄関のドアが空いて「横浜軒です〜!」と、お店の人の元気な声がする。うれしくて廊下を小走りに玄関に向かう。小さな頃は、まだ丼を持たせてもらえなかった。特に、たっぷりと熱々のスープが入ったやかんを台所まで運ぶのは大人の仕事。「熱いからね〜近寄らないでね〜」と、母が言いながら運ぶ。

スープを温めて丼に注いでもらって、お箸でほぐして食べる。コショウがあらかじめ麺にふりかけてあって、しょうゆスープにとても合う。昔ながらのシンプルなしょうゆスープ。私の大好きな味。

私たちが食べ始めてからも、祖母は横浜軒の人と玄関先でおしゃべりしていたことがよくあった気がする。玄関先で腰掛けている横浜軒のおばちゃんと、祖母の背中をぼんやり思い出せる。

母の実家は、とても居心地がよかった。祖父母もおじさんもおばさんも、私たちをとてもかわいがってくれた。忙しい家業から離れて実家に帰ってきている時は、母も心なしかのんびりして見えた。私も祖父母の家がとても好きだった。

お昼を食べたらお昼寝タイム。祖母はすぐ「寝なせ寝なせ」(これは方言で「寝たらいいよ」という意味)と言って、座布団を渡してきて私たちを寝かせる。
あんなに昼寝をする家はあまりないらしいと、大人になってから知った。子どもの頃よく昼寝をしたと言うと笑われる。姪も甥も、小学生になると全く昼寝をしなくなった。私が「ちょっと昼寝しようよ〜」と姪と甥を誘っても、「眠くない」とピシャリと言われてしまう始末。

今でも帰省して、昼間ぼ〜っとしていると「寝れば?」と母は言ってくる。私はこんなに大人になった今でも、実家で昼寝をしてしまう。

最後に横浜軒のラーメンを食べたのは、祖母がまだ元気で施設に入る前で、10年近く前かもしれない。
久しぶりに祖母の家に寄って顔を出した時に、お昼は何食べようかとなってリクエストしたんだった。あの懐かしい味。

ほかにもカップヌードルのシーフード味に七味唐辛子をふるとおいしいとか、サッポロ一番のしょうゆ味にお酢を入れてサンラータン風にしたりとか、ラーメン談議は尽きない。

あぁ、とてもお腹が空いてきた。私はストックの棚を開いて、今日はラーメンにしようとお昼を楽しみにしている。

 

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Profile

夏井景子

KEIKO NATSUI

1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。 
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Instagram:natsuikeiko

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