『運命』~おしゃれ暦vol.16~長月
『ナチュリラ』本誌でも、季節ごとのリアルクローズとそのおしゃれな着こなし方を提案してくださっている人気セレクトショップ「アナベル」。店主の伊佐さんによる、季節のおしゃれエッセイ、第16回目です。秋分の日も過ぎて、ここ数日はひんやりとした風を感じるようにもなりました。一枚、一枚と少しずつ服を重ねていくのが楽しくなる季節。素材はふんわり軽やか、でも色合いを秋らしくシックに……たとえばこんな重ね着はいかがでしょう?
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photo:川本浩太 text:伊佐洋平 model:伊佐奈々
彼らは、インドという国と文化に出会い、人生を変えた。
僕は、そんな彼らの作品ともいえるお洋服を、
あまり乗り気ではなかったが行く羽目になった合同展示会で、偶然目にすることになる。
目にした10秒後には、お店でのお取り扱いを決めていた。
あまりに手の込んだ品々に、矢継ぎ早に質問したのを覚えている。
「あなたが作っているんですか?」
「どこで作っているんですか?」
「生地からつくっているんですか?」
「この刺繍は、どうしてるの?」
「量産できるんですか?」
そこに立っていたのは、色白で可愛らしい女性。
その傍らに、彼女を守るように少し理知的な男性が立っている。
彼らは、洋服の勉強はしたことがない、芸大を出た2人組。
インドを旅行中、その生地づくりの現場を目にした彼らは、
「運命」を感じたかのように、その布地で何かを作りたくなったという。
洋服づくりも布地づくりも知らない彼らは、現地の人と仲良くなる中で、
仕事も教えてもらい、少しずつ独学で洋服を作るようになる。
最後の「量産はできるのか?」という質問に、彼らはこう答えた。
「量産ってどういうことですか?」
「同じものを何枚も工場生産することです。」って伝えると、
「あ、じゃぁ、10枚くらいならできるかな。」
「でも、全く同じ生地じゃなくなるかもしれませんけど。」
・・・・
・・・
「ふーん、やっぱりそういう服ですよね。」
「あ、そういうのは量産じゃないんですか?」
・・・・
・・・
今シーズンの彼らのお洋服は、いつも通り迫力がある。
コットンのブラウスに重ねた軽い手紬のシルクは、
心地よさそうに秋の風に揺れている。
既製服ではあまり目にすることのない、カディーシルク。
素朴で、ふんわりとして、品があって、とても軽い。
思わずヒラヒラさせてみたくなる。
白シャツの次は何を合わせようか。。
考えると笑みが漏れる。
中にセーターを着るのも素敵だけど、
まだ秋は始まったばかり。
特別なエプロンを巻くことにしよう。
少し上のほうで巻いてみる。
自由なお洋服は、自由に着てみる楽しみがある。
エプロンスカートは、どこに巻いてもいいのだと思う。
ここまでやると、衣装みたい。
人によっては、自分をアピールする武器になる。
いろいろな意味で、特別なお洋服だ。
もう少し下で巻いてみる。
ワンピースやスカート、パンツスタイルに巻いてもいい。
好きに巻いてみよう。
夏が終わり、秋深まるにつれて、
また、楽しい重ね着の季節がやってくる。
今度は横で結わいてみる。
なんだかリボンみたいで気に入った。
お洋服との出会いに、「運命」なんて少し大げさだけど、
松下幸之助曰く、人生の90%は運命らしい。
残りの10%を努力やその人の直感で、
必然に変えられるかどうかが人生の醍醐味だそうだ。
素敵なお洋服との運命的な出会いを願う、秋分です。
キャミドレス:AODRESS ¥42,000+tax
ブラウス:maison de soil ¥20,000+tax
巻きスカート:AODRESS ¥45,000+tax
シューズ:R.U. ¥39,000+tax
ソックス:ayame(私物)
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