古きよき時代の靴を現代的にリファイン 「ビューティフル・シューズ」のボタンドサイドゴアブーツ
名作と呼ばれる映画には、必ずといっていいほど実力派の脇役が存在するもの。それは、おしゃれも一緒です。一見何げないのに、実は丹念にこだわって作られたアイテムたちは、主役を引き立てるための十分な腕前を持ち合わせています。この連載では、そんな“おしゃれの名脇役”にスポットライトを当て、王道のものから隠れた逸品まで、幅広くリポートしていきます。
シューズブランドの「オーセンティック・シュー&コー」や「フット・ザ・コーチャー」などを手がける竹ヶ原敏之介さんが、2010年にスタートした「ビューティフル・シューズ」。皮革製品の産地として名⾼い浅草を拠点に、⼯程のほとんどをその周辺の職⼈さんたちと作り上げています。今回ピックアップするのは、2011年秋冬に誕⽣し、アップデートを重ね、ロングセラーとなっているこちらのブーツ。
「ビューティフル・シューズ」ボタンドサイドゴアブーツ¥63,800
※商品の価格は2023年7月現在のもので、表示は税込みです。
⾰の最⾼峰、北⽶産のステアレザーを使⽤した凛としたブーツは、⾜を⼊れずとも美しい佇まい。
「モチーフになっているのは、19世紀のヴィクトリア時代に履かれていたボタンドブーツ。クラシカルなディテールを落としこみつつ、現代の⽣活や環境、ファッションにマッチするようリファインしています」と語るのは、デザイナーの⽵ヶ原さん。まずは、このブーツのシンボリックなボタンにフォーカス。
「ボタンは、深みのある⿊が表現できるダールブラック®というメッキをかけ、その上からワックスをのせて仕上げています」
ボタンホールも、⾃⾝が集めたヴィンテージコレクションを研究し、とことんリアリティを追求。特に、ボタンの丸い部分をかがるのには、⾼い技術⼒と⼿間がかかるのだとか。上部のボタンをいくつか外して、あえてラフに履く⼈もいるそうなので、このような細やかな気配りはグッとくるポイントです。
ただ、せわしない現代では、このボタンを開閉するのはちょっと⾯倒。美しいデザインを保ちつつ、サイドゴア仕様にすることによってスムーズな脱ぎ履きを叶えています。
歩きやすいよう、つま先が反り上がっているのは、ヴィクトリア時代から続いているというハイトウデザイン。
「履き⼼地がよくなるよう、親指側を少し⾼くして程よいゆとりを持たせたフォルムも、当時の設計を踏襲しています」
この丸みを帯びたシルエットが、クラシカルなムードも演出。
当時のような堅牢なグッドイヤーウェルト製法ではなく、現代に合ったより軽やかなセメント製法で製作。アウトソールは、返りのいいイタリアのソフトレザーを採⽤し、かかとのみラバーが施されています。
「僕がこのような⾰のアウトソールの靴を履くときは、歩⾏時の返りでチラッと⾒えるレザーにクラシックさを感じるので、このままの雰囲気を楽しむことが多いです」
スリップ防⽌のラバーを貼るのもひとつの⼿段。でも、履いている本⼈が⾒えない部分にアイデンティティを潜ませるなんて、やっぱり⼩粋です。
このような靴との付き合い⽅ひとつ伺ってもこだわりが深いことを感じさせる⽵ヶ原さん。高校の制服に「トリッカーズ」や「ドクターマーチン」といった英国の⾰靴ブランドを合わせ、のちに「トリッカーズ」で修⾏し、「チャーチ」のデザイナーの家にホームステイしていたことも。帰国後は、次々と⾃⾝のブランドを展開。昨年復活したフランスの⽼舗シューズブランド「マルボー」のディレクションも⼿がけるなど、⼈⽣のほとんどは靴と共に歩んでいます。
「クラシックシューズだけでなく、スニーカーやハイブランドの靴も含め、靴全般が好き。古きよき時代のモチーフや概念をただ復刻させるのではなく、今の空気感を吹き込むことで新しい価値を⽣み出したいと考えています。このボタンドブーツもヴィクトリア時代に作られたオリジナルの良い部分を抽出し、さらに現代の仕様を加えることで、コントラストの効いたものになる。シンプルな Tシャツとカジュアルなデニムパンツのようなスタイルに合わせると、素敵だなとか想像します」
photo:花⽥ 梢 text:三宅桃子
TEL:03-5808-7515
公式サイト:https://galleryofauthentic.jp
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