随筆家・山本ふみ子さん【後編】「祖母や叔母が遺したアクセサリーを身に着け、力を借りています」
「毎日を機嫌よく」がモットーの山本ふみこさん。上機嫌に過ごせるために、小さな工夫を積み重ねていますが、「ここぞ」というときに踏ん張れるような装いの仕掛けも。それは、ご先祖様から受け継いだアクセサリーを身に着けること。仕事の打ち合わせのとき、晴れがましい席のとき、なんだか元気が出ないとき……。お祖母さんや叔母さんから受け継いだ指輪を指にはめ、今日のスイッチをオンにします。
「それぞれの指輪を譲ってくれた本人だと思って、『今日は叔母さんと一緒に行こう』と決めて指にはめるんです。だから、父方の祖母、母方の祖母それぞれから譲り受けた指輪は、一緒に指にはめることはありません。この二人の間には親しさはあったはずだけれど、どうしても遠慮は出るでしょ? だから、一緒にはしない。『今日はお母さんのばあちゃん』、『今度はお父さんのばあちゃん』っていう具合です」
「叔母は戦争未亡人で、洋裁をずっとしていた人でね、とても働き者だったんです。だから今日は仕事をがんばるぞっていうときは叔母さんの力を借りたいから、『お供してもらおう』と、叔母さんが譲ってくれた指輪を選ぶんです。単なる思い込みと言われればそれまでですけれど、指輪を通して自分が守られている気がして。お祖母さんや叔母さんに一緒についてきてもらうって、なんかいいでしょ? アクセサリーに興味は全然なくて、新しいものは一つも欲しくないけど、こういうものがあるっていうのは幸せですね」
気の遠くなるような長い時間をかけて、自然界で生み出されてきた宝石にはさまざまな力が宿っていると言われます。近しい人が苦楽を共にしてきたものならなおさら。見えない力がたっぷりと宿っているよう。「今日は、力を貸してください、よろしくお願いします」。山本さんはそんな思いを込めて、指輪を身に着けるのです。
text:鈴木麻子 photo:大森忠明
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Profile
山本ふみ子
随筆家。東京都武蔵野市教育委員。特技は、何気ない毎日に面白みを見つけること。『家のしごと』(ミシマ社)、『台所から子どもたちへ』(オレンジページ)、『忘れてはいけないことを、書きつけました。』(清流出版)など著書多数。ブログ「ふみ虫、泣き虫、本の虫」では、暮らしを楽しむ山本さんの様子がうかがえる。
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