「天邪鬼の作ったジーパン」…おすすめ帖vol.2
『ナチュリラ』本誌でも、季節ごとのリアルクローズとそのおしゃれな着こなし方を提案してくださっている人気セレクトショップ「アナベル」。店主の伊佐さんによる「季節のおすすめ帖」連載コラムです。季節ごとのおすすめの品を月に2回、ご紹介。第二回目は、存在感満点のジーパン(あえてデニムとは呼ばず!)です。
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photo:川本浩太 text:伊佐洋平 model:伊佐奈々
興味を引くデザイナーは、往々にして変わった人が多い気がする。
それは誰かが導き出した正論ともいえる答えに対し、
本能的に対抗意識が芽生えるということなのかもしれません。
そして、そこに対してのめり込める、研究熱心な一面が欠かせないのです。
彼の作ったジーンズは、そういった意味でとても興味深い。
FIRMUM スーピマコットンデニム
¥22,500+tax
まだワイドパンツが見る影もなく、
デニムと言えばワークスタイルからくる
アメリカのジーンズをモチーフにしたデザインが主流だった頃、
天邪鬼な彼は、スーピマコットンと呼ばれる、
アメリカ原産のピマ種で、超長綿として世界的に有名な綿糸を用い、
しなやかでワイドなデニムパンツを作っていた。
バックポケットは「リーバイス」のアーキュエイトステッチとはほど遠い、
丸みのある大きなもの。
そうかと思えば、生地そのものはセルビッチ。
つまり旧式のシャトル織機で織られた生地を使用している。
ヴィンテージの証とも言われる、いわゆる“赤耳”のデニムである。
しかしよく考えると、ヴィンテージにはありえない、
超長綿を用いているのであるから、そこへの敬意とともに
反逆心のようなものを感じ取れる。
そしてこのポケット。
ジーンズの代名詞ともいえる「5ポケット」を無視した、
スラックスパンツに用いられる、スラントポケットを採用している。
天邪鬼ではあるが、この素材にはとてもしっくりくる。
釦は銀や鉄ではなく銅のネオバを使い、
ベルトループには一見気がつかないある工夫が成されている。
ベルトループが太めと細め、2重になっているのです。
「何だこれ?」って思ったのですが、実際履いてみると
これが嬉しいデザインだということに気がつくのです。
ジーンズのシルエット自体、「リーバイス」の“501”のように
真っすぐ立ち上がったウェストで、腰に乗せて履くようなものでなく、
カーブを付けたややハイウェストなデザインなのです。
正確には、ハイウェストと腰に乗せる感じの中間くらい。
そのデザインに、このダブルループが一役買っているのです。
もしかしたら、ハイウェストなドカンパンツを履く姿を
ジーンズのデザインに重ねたのかもしれません。
「何ですかこのループ?」っていう質問に、
「細いベルトを使ってハイウェストでタックインした時、
太いループだけじゃ、ベルトがウェストからはみ出ちゃうでしょ」と。
かといって、太いベルトをドッシリ付けて腰履きしたい時もある。
このジーンズは、そのどちらで履いてもかっこいい。
このジーンズを初めて見た時、これこそがデザイナーが作るべきジーンズなのかもしれないという確信めいたものを感じたことを覚えています。
ジーンズとは思えない、しなやかな超長綿の素材感と、
チノパンを履いているような感覚に陥るスラントポケット。
しかしながら、セルビッチデニムを用いただけに、
本格的な色落ちが期待できるジーンズ感。
ジーンズという歴史のある概念と向き合い、
彼なりに戯れることで生み出した、少し変わった
ジーンズと呼ぶのがふさわしいのかが怪しいこのパンツは、
あまりに不人気であったため、一時は生産を中止しようかと
真剣に悩んだこともあるという。
そんな中、ファッション全体でムーヴメントとなった
ワイドパンツの存在が、このパンツの一命を取り留めさせたのは、
少し皮肉めいているようにも感じられて面白い。
天邪鬼でデザインしたはずの変わったジーンズが、
ファッションのトレンドによって救われたのだから。
今、皆さんが履きなれたコットンのワイドパンツと同じ感覚で、
春先には軽くロールアップして、少し明るい色合わせで履いてみれば、
普段のワイドパンツとは違った、新鮮な心持が生まれるかもしれません。
グレイッシュな白いメルトンのウールコートに身を包み、
少し遠くにある春を待つ。
着なれたはずのコートも新鮮に感じられることでしょう。
春物が入荷をする一方で、最も寒い大寒を迎える今、
一年中履ける新しいジーンズで、明るい色合いの冬物を駆使したコーディネートを考える。
天邪鬼というと、ひねくれものの印象を持たれるかもしれないが、
彼ほどの一流の天邪鬼ともなると、出てくるものは魅力的だ。
芸大で建築の勉強をしていた彼が、ロゴTシャツを作り初めて
各地のセレクトショップを売り歩き、洋服の道を歩き始めた頃、
日本のファッションシーンは、マンションアパレルやインディーズと
呼ばれる新しい世代のデザイナーであふれていた。
そんな中、洋服の教えを受けたことのない彼が、臆することなく
突き進んだことには、素直に洋服に対する情熱とこだわりを感じ得る。
そして、本当に驚くのは、洋服の世界でもとりわけ専門的に扱われる
パターンの仕事を、彼は独学で学び、そして現在も日々勉強だと言い放つ。
洋服の学校を出ずに洋服業界で働いている人はたくさんいるが、
彼のような仕事をしている人には出会ったことがない。
これからも型にはまらない天邪鬼なモノつくりを期待したい。
コート:NO CONTROL AIR ¥48,500+tax
ジーンズ:FIRMUM ¥22,500+tax
セーター:ITOI ¥37,000+tax
ストール:ITOI ¥24,000+tax
シューズ:VIELLE ¥26,000+tax
バッグ:KHOHi ¥22,000+tax
東急田園都市線たまプラーザ駅から徒歩5分
℡045-482-4026
営業時間:11:00~20:00 水曜定休
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