「印象を探るデザインの旅」…おすすめ帖vol.7
『ナチュリラ』本誌でも、季節ごとのリアルクローズとそのおしゃれな着こなし方を提案してくださっている人気セレクトショップ「アナベル」。店主の伊佐さんによる「季節のおすすめ帖」連載コラムです。季節ごとのおすすめの品を月に2回、ご紹介。第七回目は、アンティークなの? とさえ思う不思議な佇まいが魅力のコートです。
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photo:川本浩太 text:伊佐洋平 model:伊佐奈々
わたしは、自身の直感でモノを選び抜く行為が好きであるが、バイヤーをやる人は、きっと皆さんそうなのかもしれません。そして、その結果にも当然興味がある。お客様がどのような反応をしてくださるのか?
今日ご紹介するブランドは、実は6年前にとあるセレクトショップで、衝動的に2着同時に購入するほど気になったブランドでした。その衝動は忘れることができず、タンスの奥にスッと大切に保管するかの如く、たまにそのブランドの名前を口に出してはしまい込み、ようやく今年の春、「アナベル」の店頭に並ぶことになりました。
そのブランドの名前は、「TOKIHO(トキホ)」といいます。デザイナーの名前である「季穂(ときほ)」がブランド名の由来です。
リネン100%の千鳥格子の素材に、あまり見たことがないのですが、墨汁をコーティングしてある素材を使用しています。
このコーティングにより、経年があやふやになり、いったいいつ、だれが作ったものなのかも、推測が難しくなるような、そんな雰囲気を纏っています。手触りもぬめり感のある素晴らしい感触です。
デザイナーの季穂さんとお話をしていると、とても捉えどころがない一方で、「印象」という言葉と「感覚」という言葉がたくさん登場します。
人に影響を与えられそうな印象物を作り出せるとしたら、たまたまそれが洋服であったというだけで、それが叶うなら洋服でなくても良いのかもしれないともいう。
生地選び、型紙の作成、縫製工場とのやりとり、出荷作業、展示会でのバイヤーとのセッション。分業が当たり前な業界で、これをすべて一人でこなすのはなかなかだ。生地選びはデザイナーの仕事、型紙はパターンナーの仕事、工場とのやりとりは生産管理の仕事、出荷作業は物流の仕事、展示会では営業が前に立つ。これが多くのブランドの通常のかたち。
「だからね、好きじゃなければやれてませんよ」という言葉が印象に残る。
自身の「好き」をとことん追求する季穂さんは、いわゆるアパレル業界での就業経験がないそうだ。在学中に、企業の見学に出向いた際に、「これは自分には無理」だと感じ、最初から自分で洋服を作り、友人のお店に置かせてもらうというスタイルをとった。
当たり前のシステムの上で何かをすることがとても苦手らしく、できる限りシステムの外側で何かを探っていたいという。そうしなければ、印象を作り出すこともできないし、人に衝撃を残すことも難しいのだろうから。
そんな季穂さんに、現在のデザインのルーツについて伺うと、1800年代の服飾の月刊誌に掲載されていた型紙見本とアンティークの付け襟のセットの話を切り出してきた。少し哲学的なお話の多い季穂さんだっただけに、意外な気持ちと、洋服への確かな愛情を受けとめることができた。
雰囲気が抜群なだけに、そこが際立って見えるが、実に着心地がいい。
モノつくりでの偶然性を大事にしたいという一方で、最近は襟の存在が気になるという。
いったい襟は必要か?という素朴な疑問が頭をよぎり、今シーズンの商品は、なんとなく襟の気配を消しているという。
様々な気配を消しながらも印象を残すお洋服「TOKIHO(トキホ)」は、そんなデザインを求めて日々を過ごしている。
コート:TOKIHO ¥51,000+tax
※その他の商品もすべてアナベルで販売しております。
神奈川県横浜市青葉区美しが丘2-20-1美しが丘アレービル104
東急田園都市線たまプラーザ駅から徒歩5分
℡:045-482-4026
営業時間:11:00~20:00 水曜定休
https://www.instagram.com/annabelle_104/
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