「最高の個性」…おすすめ帖vol.23

『ナチュリラ』本誌でも、季節ごとのリアルクローズとそのおしゃれな着こなし方を提案してくださっている人気セレクトショップ「アナベル」。店主の伊佐さんによる「季節のおすすめ帖」連載コラムです。季節ごとのおすすめの品を月に２回、ご紹介しています。

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photo：川本浩太　text：伊佐洋平　model：伊佐奈々

オリジナリティーという観点で見て、彼の洋服デザインは少し抜きんでているように感じます。昔、服飾の学校でバイイングの授業を受けている時、先生がこんな事を話していた。学校を出て、現場でバイイングをする機会が出てきたら、ここで今教えている数字的なことやマニュアル的な要領はすべて忘れても構わない。ただ、洋服を目の前にした時に湧き出てきた感情をしっかり自分の中でキャッチすることができるように意識してくださいと。その感情はその時の自身のセンスであり、そのセンスというのはずっと洋服に携わることで変化していくから、その変化を捕まえることがとても大事になると。

きっと、デザインする側も同じでしょう。一定の「らしさ」を保ちながら、その時の気分をしっかり表現できるということがオリジナリティーにつながるのでしょう。

「FIRMUM（フィルマム）」のポケットがたくさん付いたコートは、あきらかにミリタリーウェアをモチーフにはしているが、ここまでデフォルメできるデザイナーもなかなかいない。

このタイプのデザインは、デザイナーの米永さんが数年前から始めたシリーズなのですが、初めて見た時はちょっとした衝撃でした。明らかにポケットが主役になっている。

思わず聞いてしまいました。。「これは、なんでこんなことになったんですか？」って。ほとんど全てのことに理由があるのが彼の面白いところでもあります。返事はこうでした。「スーパーに売ってるおつまみとかのパッケージが陳列している姿って、きれいじゃないですか？あれを眺めてて思いつきました。」って。

「なるほど～。」とは言っても、たぶん服飾学校で10代から洋服漬けで勉強して、コンクールやコレクションの世界でやってきた人には真似できないであろう、明らかに彼のオリジナリティーで才能なのだと思います。

見てください。この袖付けのバランス。見ているだけで可愛らしい。

フロントは大きなスナップボタンで、大きな整列したポケットとの相性は抜群です。

裏地はないデザインですが、かなりしっかりしたウール素材を使用しています。

ウールは様々な種類が混ざり合った面白い表情を見せてくれる。ニュージーランド産の羊毛が30％、ラドーナウールという英国羊毛が35％、ウェリッシュウールという英国羊毛が35%で、見た目には伝統的なツイードのようにも見えますが、白いケンピという毛を残し、少しフェルト化させたよう表情があって新しい感覚の素材です。

遊びのあるコートはこんな風に着てもいいのかなって、思います。

裾からワンピースが少し見えていて、パンツも履いているので裾まわりがにぎやかです。

一重のウールで、ビッグシルエットですので体にフィットして温かさを感じるタイプでなく、風を通さないタイプのコートです。下にセーターを着て、巻き物も楽しんで。

「FIRMUM（フィルマム）」というとわからない方もいるかもしれませんが、「NO CONTROL AIR（ノーコントロールエアー）」というとわかる人も多くいるのではないでしょうか。そうなんです。デザイナーは同じ米永さん。

僕が通っていた学校の先生はこんなことも言っていました。「自分が、最高！と思って世に出したものが認められなかったら、あきらめるしかないんだよ。調整もできるんだけど、、辛くて長く続かないから。」って。

彼のデザインは、思い切りがすごいと思います。女性らしさを強く感じる「NO CONTROL AIR（ノーコントロールエアー）」に対して、デザイナーがもともと大好きなミリタリーやワークの要素を素材やデザインにたくさんちりばめた「FIRMUM（フィルマム）」。これからも躊躇のない遊びのあるデザインを期待したと思います。

コート：FIRMUM（フィルマム）￥49,000+tax

＊編集部より　伊佐さんスタイリングのシャツの着こなしを現在発売中の『ナチュリラ』2019秋号vol.47で特集していますよ。本誌のほうもぜひご覧になってみてくださいね！