コーヒー一杯から考えるサスティナブルって?

編集部ブログ
2020.12.26

最近、様々なところで耳にするようになった「SDGs(エスディージーズ)」や「サスティナブル(持続可能な)」という言葉。地球の環境を壊さず、資源を大切にしてよりよい形で循環させ、幸せな未来へ受け継いでいくための目標で、アパレル業界や食品業界をはじめ、多くの企業が真剣に取り組み始めていますよね。私たち一消費者としても、そういう姿勢の企業のアイテムを意識して選ぶようになったり、エコバッグを必ず持ち歩いていたりと、少しずつ意識が変わってきた、という方も多いのではないでしょうか?


そんな中、在宅勤務でコーヒーを毎日飲むようになった編集スタッフのツダが、大好きなコーヒー業界でもサスティナブルな取り組みが進んでいる! という噂を耳にして、Panasonic「The Roast」に、話を聞きに行ってまいりました。


私たちがおいしい一杯を飲めるまでには、コーヒー豆の生産者、焙煎士、そして極上の一杯に仕上げるバリスタなど……たくさんの人の仕事が詰まっています。そうしたプロたちが今真剣に考えているのは、コーヒー業界の未来について。「The Roast」の焙煎プロファイルをつくっている、世界焙煎チャンピオンの後藤直紀さんは、このように話しているのだそう。


「今、コーヒー産業は危機的状況です。一番の大きな問題は生産国での賃金の安さで、産業の仕組みを変えていく必要があると思っています。そのためにはワイナリーのように、生産者が原料だけでなく『商品』を作りダイレクトに消費者に販売できることがベスト。ただ、コーヒーは焙煎後、時間が経つごとに劣化してしまうので、それが難しい。だったら、生産者が私たちのような焙煎士のプロファイルとセットで生豆を出荷して、焙煎は家庭だったりコンビニだったり、消費者に近いところでできる仕組みをつくるのがいいのではないか。農場から家庭に届くまでに、たくさんの業者を介することがなくなれば、生産者の生活がよくなり、コーヒー産業の未来に光が差すと考えています」


「また、2080年にはアラビカ種が絶滅する、とも言われています。気候変動や森林破壊、病気や害虫など色々な原因がありますが、このまま減り続けてしまうと産業として成り立たなくなってしまう。だから、新しい産地の開拓も必要なんです」


コーヒー豆の栽培に適している環境は標高の高さに加え、日中気温が20~24℃まで上がるところ。その条件を満たすのは、赤道を中心とした北緯約23度から南緯約23度までの熱帯・亜熱帯地方が多く、そこは「コーヒーベルト」と呼ばれています。ブラジルやエチオピア、インドネシアなどが有名ですが、じつは、日本でもコーヒー豆の栽培が行われていることをご存じでしょうか?


条件からいうと日本は栽培に不利な環境で、安定供給の難しさなど課題も多いのですが、2016年、沖縄の農園「アダ・ファーム」から、日本産として初めてのスペシャルティコーヒーが誕生しました。スペシャルティコーヒーとは、「From seed to cup」と呼ばれるすべてのプロセスにおいて品質管理が徹底された上質なコーヒーのこと。認定されるには、おいしさを客観的に評価する世界共通のカッピングテストに合格しなければなりません。


「アダ・ファーム」がつくるコーヒー豆のおいしさについて、認定試験の審査員を務めた世界焙煎チャンピオンの後藤直紀さんは「普段私たちが飲んでいる輸入の豆とは違い、コーヒーの果肉独特の甘い香りが特徴的。とても素晴らしいです」と、大絶賛しています。


「アダ・ファーム」は、那覇空港から車を走らせること3時間弱、山々の中にポツンと佇む安田(あだ)地区という小さな集落にあります。


標高170メートルの低地、照りつける沖縄の強い日差し、粘土質の土壌など、コーヒー豆の栽培にとってベストな条件とは言えません。不利な環境下でも高品質な豆をつくることができたのは、生産者の徳田さんが時間と手間を惜しむことなく栽培しているからこそ。


コーヒー豆づくりは、光と土と水のバランスがとても大事。徳田さんはその調整をじっくり、ていねいに行っています。光は、直射日光を少しでも弱めるために、そして土の中の水分を一定量に保つために日除け用の木を植えたそう。土は堆肥を入れることでベストな状態を作り上げますが、この土地がつくる本来の味を大事にしたいという想いから、堆肥が効きすぎないように、あえて周りの雑草を残したり、他の植物を植えたりなど、細やかに状況を観察し土壌環境を管理しているのだとか。


また、「アダ・ファーム」のコーヒー豆のほとんどは、熟度の判別がしづらい黄色の果実をつけます。果実の熟度を揃えることは、おいしさの必須条件。色だけではなく、ひとつひとつ手にとって感触を確認し、時にはかじって熟度を判断しているそう。コーヒーの木が約800本ある農園で一本一本の木を見ながら、最適な環境づくりを心がけ、細心の注意をはらって収穫をする、その労力は計り知れません。

「普通ここまでしないよなっていうことまでしている。この土地が出し得る最大限の状態をつくっているように感じました」と、焙煎士の後藤さんもその栽培方法には驚きを隠せなかったといいます。


そんな徳田さんの努力の甲斐があって、スペシャルティコーヒーの認定試験では、高地であればあるほど高いといわれる脂質の数値が、一般の豆より高いという驚きの結果に。さらに熟度に関しては、現在流通しているスペシャルティコーヒーよりも高く、プロフェッショナルたちの評価から、「アダ・ファーム」のコーヒー豆は海外のスペシャルティコーヒーにも引けを取らない高品質な豆であること、そして日本の、この土地だからこそ出せる独特の味わいがあることが証明されました。

認定試験のあと行われた試飲会で出されたコーヒーは、沖縄出身の焙煎士・仲村良行さんが焙煎を担当。「初めて飲んだときに印象的だった“甘さ”をテーマに焙煎しました。浅煎りはその甘さと酸味を全面に感じてもらえると思います。コーヒーの厚みも感じられるように、中深煎りは苦味(ビター感)を感じる一歩手前で仕上げました。この甘みが皆さんの記憶に残ると嬉しいです」。その焙煎プロファイル名は「AKATITI(アカチチ)」。アカチチとは沖縄の方言で、夜明けや明け方のことを意味します。その名前には、日本初のスペシャルティコーヒーとなった「アダ・ファーム」の豆に接し、「国産コーヒー豆の未来が明るいと思った」という仲村さんの一言が凝縮されています。


普段何気なく飲んでいる一杯は、どこで生産されたのか、どんな人たちの仕事が関わっているのか、そしてそれはサスティナブルなものなのか……。コーヒーを選ぶときに、おいしさに+αでいろいろなストーリーを知り、想いを馳せると、奥深い至福の一杯を楽しむことができそうです。

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