【おひとりさま外食②】愛煙家に独占させるのはもったいない

おひとりさま外食
2026.01.06

2026年最初の特集は【おひとりさま外食】をテーマにお届けしています。

ひと口に【おひとりさま外食】といっても、状況はさまざま。「自分の気持ちにフィットするお店を選ぶと、ひとり時間が充実する」と話すのは、飲食コンサルタントのサカキシンイチロウさん。この特集では、サカキさんの著書『大人の東京おひとりさま外食』(主婦と生活社刊)から、【おひとりさま】にやさしいお店を、4つのシチュエーションにわけてご紹介します。


【situation2_のんびり外食】
自分のペースで、
自分だけの時間を過ごす
和蘭豆

銀座は喫茶店が多い街。個性的で多彩な魅力をもったお店がたくさんあって、日本最古の喫茶店なんてお店もあります。おひとりさまで出かけるときは、のんびりできる喫茶店やカフェがある街を選びがち。ハシゴができて、店を変えるたび気分が変わって、ひとり時間を楽しく過ごせますから。

銀座のオキニイリの喫茶店のひとつが「和蘭豆」です。自家焙煎の豆で作ったコーヒーがおいしいお店。カウンターにテーブル席。全部合わせても46席と小ぶりな店です。カウンターにはサイフォンがズラっと並ぶ、いかにも「珈琲専門店」といった風情。創業1972年。白いシャツに黒いベストをキリッと着こなすお店の人の凛々しい姿に銀座の老舗の風格を感じます。


昭和の空気が今もお店を満たしています。

そして昭和の空気にはタバコの香りが混じっています。

タバコが吸える店なんです。昭和の喫茶店は一服つけるための場所。昔はボクもタバコを吸っていたから、喫茶店の椅子に座ると同時にタバコを取り出し火をつけていたもの。煙をくゆらせながら注文し、タバコの合間にコーヒーを飲んでいました。タバコを吸わなくなってもう30年はゆうに過ぎ、すっかり煙の匂いが苦手になりました。でも、不思議とタバコが似合う場所があるんです。「あの人が今、吸っているタバコは本当においしいんだろうなぁ」って思う場面に出くわすことがたまにある。

静かなバーのカウンターで、シングルモルトをかたわらにタバコをゆっくりくゆらせる人。仕事の合間、休憩時間にコーヒー片手にタバコを吸う人。バーと珈琲専門店は不思議とタバコが似合う空間。あるいは「似合う空間だった」といった方がいいのでしょうネ。この「和蘭豆」がそういうお店です。

カウンターやテーブルの上に黄色いガラスの灰皿。コーヒー用の砂糖が2種類置かれています。ブラウンシュガーにグラニュー糖。グラニュー糖の器は磨き上げられた銀のポットで、砂糖の器をのせたトレイも銀器というところに銀座を感じる。換気がいいのかタバコが不思議と煙たくないのがうれしくもあります。

コーヒーはなめらかな喉越しのやさしい味わい。しみじみおいしいと感じる名品です。しかもアレンジコーヒーやコーヒーを使ったスイーツ類など、愛煙家に独占させておくのはあまりにもったいない、愛らしいメニューが豊富に揃っているんです。

ボクがここで必ず頼むのが「モカ・ゼリー」。グラスのちょうど下半分ほどを満たしてかためたコーヒーゼリー。ボール状に形を整えたバニラアイスクリームを上にのせ、冷たい生クリームをたっぷり注ぐ。するとアイスクリームに触れた生クリームが凍ります。凍った生クリームがまるで卵の殻のようにアイスクリームを包み込み、コーヒーゼリーの表面を満たして仕上がる。

そのうつくしさにウットリします。スプーンの背中でアイスクリームを叩くと、カンッと乾いた音がする。何度か叩くと生クリームの殻に小さなヒビが入ります。力を入れてアイスクリームをすくい上げ、口に含むとそれは冷たい。アイスクリームがあったかく感じるほどに凍った生クリームが冷たくてビックリしちゃう。とはいえそれも口の温度で溶けて、たちまちとろんとなめらかになる。コーヒーゼリーをすくいあげるとブチュンと湿った音を立て、スプーンに乗っかりブルンと揺れる。舌にのせればほろ苦く、溶けると上等なアイスコーヒーのようにふるまう。アイスクリームと一緒に食べればアイスカフェオレ。あるいはコーヒー味のアイスクリームのようにも感じます。
冷たいといっても、いろんな冷たさがあるんだなぁ……。鋭い冷たさ。ひんやりとしたやわらかな冷たさ。かすかに感じるやさしい冷たさ。そういういろんな冷たさがひと口ごとにやってくる楽しい一品。

コーヒーゼリーに、ラム酒をたっぷり吸い込ませたラムレーズンとアイスクリームで作る「大人のコーヒーパフェ」は名前のとおり大人味。コーヒーが苦手な方には紅茶で作った氷に、水出しの紅茶を注いで仕上げるアイスティーやアイスロイヤルミルクティーが用意されています。シフォンケーキにピザトーストと、小腹満たしに適した料理もたくさんあって、なにを頼んでも間違いのない安心感がなによりうれしい。場所は銀座7丁目。外堀通りに面した一角にあります。かつて大手広告代理店の電通が本社を構えていたことがあったから、電通通りと今でも呼ぶ人がいる通り。銀座の中でもオフィス51え、ドアが開け閉めされるたび空気が入れ替わるから、煙の匂いがおだやかになる。

銀座のクラブ遊びをする前に、ここに寄ってモカ・ゼリー。飲む前に乳脂肪分をお腹に入れると悪酔いしないからって、都合のよい言い訳をしながら、通りを歩く人が徐々に艶めくさまを小さな窓からぼんやり眺める。銀座ならではのひとり時間の楽しみです。

 



この特集のナビゲーター・飲食コンサルタントのサカキシンイチロウさん。プライベートでも、朝昼お茶と1日2回以上、年間1000回もの外食をする“食いしん坊”さん。

 

撮影:黒川ひろみ

 

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\【おひとりさま】にやさしいお店をご紹介しています/


定価:1980円(税込)
amazon / 楽天ブックス

 

著者:サカキシンイチロウ
撮影:黒川ひろみ・有馬貴子
デザイン:天池聖
マップ製作:重志保
協力:森有貴子
校閲:文字工房燦光
主婦と生活社刊

和蘭豆
東京都中央区銀座7‐3‐13 ニューギンザビル1F

電話◉03-3571-8266
営業◉月~金:10時~22時  土・日・祝:11時~20時(LO閉店の30分前)
定休日◉*ご来店前に店舗に確認ください
モカ・ゼリー 880円
◎おひとりさま ◎ふたりで ×大勢で

 

Profile

サカキシンイチロウ

Shinichiro Sakaki

1960年愛媛県松山市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、店と客をつなぐコンサルタントとして1000社にものぼる地域一番飲食店を育成。語学力と行動力と豊富な知識で戦略を展開する。飲食店の経営のみならず、食全般に関するプロデュース、アドバイスを主な業務として活躍中。著書に『おいしい店とのつきあい方。』(角川文庫)などがある。毎日更新しているブログ「サカキノホトンブ」やnoteでも発信中。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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