【おひとりさま外食④】串をはずして召し上がれ。女性にやさしい焼き鳥の店
2026年最初の特集は【おひとりさま外食】をテーマにお届けしています。
ひと口に【おひとりさま外食】といっても、状況はさまざま。「自分の気持ちにフィットするお店を選ぶと、ひとり時間が充実する」と話すのは、飲食コンサルタントのサカキシンイチロウさん。この特集では、サカキさんの著書『大人の東京おひとりさま外食』(主婦と生活社刊)から、【おひとりさま】にやさしいお店を、4つのシチュエーションにわけてご紹介します。
【situation4_とびきり外食】
とびきりおいしいものを
ステキなサービスとともに味わう
京橋伊勢廣本店
焼き鳥は串からはずして食べちゃいけない。そんな行為は焼いてくれた人に申し訳ない無礼なことだ。そういうことを言う人がいます。グルメ気取りの人が往々にして言いがちなことで、だって串からはずして食べていいなら最初から串からはずして提供するはず。串のまま提供されるということは、串からはずさず食べてくださいという調理人からのメッセージなんだと、そういう人たちは言ったりもする。

たしかにそうかもしれません。作り手が仕組んだように食べなきゃいけない「命令形」の料理を出したがるお店もあります。一貫一貫、完璧に味をほどこし醤油皿さえ出さない、おまかせコースの寿司屋がそういうお店のひとつ。調理人の企みに溺れるような食事も楽しい。でも作り手が仕組んだ食べ方に、食べ手がほんのちょっとだけ工夫をくわえて味わうことも食の楽しみ。ボクはそういう工夫が大好き。
ひとりで食事する醍醐味のひとつが「おいしい自己責任」を試すこと。
焼き鳥も串からはずして食べたっていいじゃないかと思っちゃう。
焼き鳥はダイナミックとエレガンスが同居している料理だと思うんですネ。直火でこんがり焼き上げる。調理法は原始的でダイナミック。串に刺された鶏肉はひと口大で、串からはずせば唇を汚すことなく味わえる。数ある鶏肉料理の中でも、ひと口大で優雅に食べることができるという点で、焼き鳥という料理の右に出るものは見つからないんじゃないかと思う。
ダイナミックでエレガント。
そんな焼き鳥を、どうぞ、串からはずしてお召し上がりくださいとすすめてくれる焼き鳥専門店が京橋にあります。

「伊勢廣」という老舗のお店で、焼き鳥用フォークを考案したお店としても知られています。フォークの名前は「チキナー」。二股に分かれた小さなフォークで、串がスッと間に入る。分かれた先端には角度がついていて、肉を押さえて串をひくと肉がキレイに串からはずれます。はずれた肉はそのままフォークで刺して食べても、箸で食べてもご自由に……、という道具。お店でも、Amazon でも買うことができるのだけど、パッケージには「大正十年創業。焼き鳥専門店考案」と書かれています。女性にも焼き鳥を心置きなく楽しんでいただこうという思いで出来たフォークだといいます。

お店は、ゆったりとした客席に座り心地の良い椅子、そして広いテーブル。中でもカウンターは焼き鳥を焼く様子を見ながら待てる、おひとりさまの特等席です。焼かれる様子は圧巻。鶏の脂に火がついて、炎まみれになるのもかまわず強火でガンガン焼いていく。煙が出ます。けれど換気がしっかりしていて、服に匂いがつくことはありません。強火で焼いた肉はふっくら。焦げたところはハサミでチョキンチョキンと切って形を整え仕上げる。

お昼がいいです。気軽な定食、手軽なコース、焼き鳥丼とおひとりさまにやさしいメニューが目白押し。夜になるとグループ客でにぎわうお店も、昼にはおひとりさまが多いんです。定食も丼も串の本数で値段が決まります。つまりお腹のすき具合に合わせて料理を選べるところもとてもやさしい。定食は5本から。丼は3本から注文できて、用意されている串の種類は9種類。「9本定食」を頼めば、全部楽しむことができます。
ボクは実は鶏肉があまり得意じゃないのです。鶏独特の匂いが苦手。ブヨブヨした皮も苦手で、特にクセの強い地鶏はどうにも食べられない。でもこのお店の焼き鳥は食べられます。鶏の鮮度にこだわっているんですネ……。その日に仕入れた鶏を捌いて串を打ち、その日のうちに使い切る。どんなにおいしいとされている鶏でも、肉になって時間が経てば味は落ちます。新鮮な鶏を新鮮なうちに串を打ち、大胆に、けれど細心の注意をはらって焼けばおいしい焼き鳥になる。ここの焼き鳥はそういう焼き鳥。

「皮身」という皮をつけた肉を焼いた串があるのだけれど、脂が揚がったようにサクサクで、噛むと口の温度が一瞬下がったようにひんやり感じて、脂のうまみが口に広がります。串からはずした焼き鳥をご飯にのせた丼は、食べやすいうえ熱々のご飯のおかげで、のせた焼き鳥もずっと熱々。しかも丼の形が独特。口が広くて浅いから、焼き鳥が重なることなくうつくしく見え、焼き鳥の量にくらべてご飯が控えめ。丼はご飯でお腹を満たす料理と思われがち。けれどこの丼は、焼き鳥を気軽に楽しむための丼。しかもご飯の上に並ぶさまざまな焼き鳥を、どの順番で食べてもお行儀悪くならない。焼き鳥丼って、とても自由な食べ物なんです。

その手軽さに丼にしようかなぁ……、と思いながら、丼にのらない串でどうにも好きなものがある。葱巻というネギの白くて太い茎の部分を薄く削ぎきった鶏肉で巻いたもの。肉はふっくら。スパッと歯切れたと思うとネギがバリッと前歯でこわれて肉と混じり合う。それを食べるために定食にしようと決心するも、やっぱり丼のタレが絡んだご飯も旨いと、迷う時間も楽しいお店。オキニイリ。

この特集のナビゲーター・飲食コンサルタントのサカキシンイチロウさん。プライベートでも、朝昼お茶と1日2回以上、年間1000回もの外食をする“食いしん坊”さん。
撮影:黒川ひろみ
\【おひとりさま】にやさしいお店をご紹介しています!/

著者:サカキシンイチロウ
撮影:黒川ひろみ・有馬貴子
デザイン:天池聖
マップ製作:重志保
協力:森有貴子
校閲:文字工房燦光
主婦と生活社刊
電話◉03-3281-5864
営業◉昼:11時30分~14時 夜:17時~21時(土曜のみ17時~20時30分)
定休日◉日・祝
焼鳥3本丼 1800円
焼鳥5本定食 2800円
◎おひとりさま ◎ふたりで ◎大勢で
Profile
サカキシンイチロウ
1960年愛媛県松山市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、店と客をつなぐコンサルタントとして1000社にものぼる地域一番飲食店を育成。語学力と行動力と豊富な知識で戦略を展開する。飲食店の経営のみならず、食全般に関するプロデュース、アドバイスを主な業務として活躍中。著書に『おいしい店とのつきあい方。』(角川文庫)などがある。毎日更新しているブログ「サカキノホトンブ」やnoteでも発信中。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。






























