日本とハワイの架け橋。60年以上続く老舗「ふるさと寿司」へ

暮らすように旅する Travel Hawaii
2025.04.09


Aloha、皆さん、お元気ですか? トラベル&料理・編集ライターの赤澤かおりです。春爛漫ですね〜。今週は、昨年末に1か月滞在したハワイ旅の記録を4日連続でお届けしております。3日目の本日は、今回のハワイ旅で一番感動したレストランのことを。



ご存知の方も多いと思いますが、ハワイにはたくさんの日本食レストランがあります。種類も多岐にわたっていて、寿司、天ぷら、鉄板焼き、蕎麦、とんカツなどなど個々にある感じ。昔は日本食でひと括りになっていて、蕎麦も天ぷらも寿司もなんでもありな感じでしたが、最近は細かく分かれていてお味も昔に比べかなりグレードアップされております。

30年ほど前にワイキキにあったお蕎麦屋さんでカツ丼をオーダーしたら、卵をだしではなく、バターでとじたカツがご飯にのってきたことがありました。それはそれで濃厚でおいしかったし、海外にいるんだなという感じがして話のネタにもなってよかったのですが、今はそんなことはほぼないはず。どこもしっかり日本食に近い、いやそれ以上の味わいになっているようです。でも、ちょっとずっこけた日本をイメージしたハワイの日本食が好きだった私としては、それはそれでやや寂しくもあるんですけれどね。

旅行中、自国の味を求めてしまうのは日本人だけではないと思うのですが、海外を旅していると特に日本人はその傾向が強いように感じます。だしが入ったものを食べるとホッとするとか、醤油の味わいに胃袋が安堵するとか、そういう話をよく聞くからなのかもしれません。だからなのか、海外ではより一層お寿司屋さんを求めてしまうのは私だけではないような気がしています。

ハワイには、マグロやタコなどの魚介や海藻を、塩や醤油とあえた「ポケ」という定番料理があり、それをそのままつまみにしたり、ご飯と合わせて丼にしたりします。わざわざお寿司屋さんに行かなくても気軽にそういった類のものが手に入るので、私も現地にいるときは、何かというとポケ丼を食べています。なんというか、胃袋が落ち着くんです。お寿司は高いですからね。価格と質とを考えるとポケ丼がちょうどいいと思っていたんです。




入口の向こうに見える椰子の木と陽気な職人さんたちがいい感じ。


ところが、灯台下暗し。どうして今までこの店の存在に気づかなかったんだろう?という、おいしくてお値段も程よいお寿司屋さんに出合ってしまったんです。いや、存在には気付いていたけれど、なぜだか足を踏み入れたことが一度しかなく、それもまた30年くらい前の、ドキドキしながら日本食を求めた心許ない時代のことで、あまりに記憶がなかったのですが、今回再訪し、感動感激の嵐だったのです。



そのお店こそ、「ハイアット リージェンシー ワイキキ ビーチ リゾート アンド スパ」の1階にある「ふるさと寿司」。こちらのお店が、東京・目黒に合掌造りの家屋を白川郷から移築し、和食レストランをオープンしたのは、今から68年前のこと。それから約7年後の1964年に、ホノルル動物園の前にあった「ワイキキ グランド ホテル」に和食店としてオープンしたのが、ハワイにお店を出した始まり。翌年、ワイキキの「フォスター タワー」と「ハイアット リージェンシー ワイキキ」地階にも出店。そして今回訪れた、カラカウア大通りに面した店舗がオープンしたのは1970年のことだと伺いました。


見てください、このカッコイイ1970年代のパンフレット。「Furusato」という書体もなんて素敵な! オープン当初は、すき焼きや鉄板焼きをしていた時期もあったそう。



左から「ワイキキ グランド ホテル」「ハイアット リージェンシー ワイキキ」「フォスター タワー」の店舗。

 





今回、「ふるさと寿司」が気になったのは、偶然、友人とお店の前を通ったときに目に入ってきたメニューがきっかけでした。太鼓橋を模した器の上にマグロ、イカ、いくら、はまちなどが並んだゴージャスな寿司盛り「Hawaiian Bridge」(写真奥/2人前78ドル)というメニューを見た私が「こういう器とか懐かしいね。昔のハワイの日本食ってこういう感じですごく好きだったなぁ」と言うと、友人が「この太鼓橋の器には実は意味があって、ハワイと日本の架け橋ってことで、日本の本格寿司が橋を渡り終えたらレインボーロールになっているということらしいよ」と解説してくれました。

その瞬間、私のハワイのちょっとお茶目なおもしろいこと探求スイッチがオンになってしまい、食べに行きたい! お店の歴史も知りたい! ということで、さっそく友人とお店を訪れ、お寿司をいただきつつ、ハワイ創業当時の貴重なパンフレットを見せていただきながら、昔懐かしい話を伺ったというわけ。





今回お話を伺ったのは、3代目オーナーで、創業者のお孫さんでもあるユウコさん。
「昔は入口に着物を着た人が立っていて、お客さんが入るとその人数分だけ太鼓を叩いていたそうなんです(笑)。今聞くと、おもしろいエピソードですけれど、当時は真剣にやっていたんだと思います。あらためて、この移り変わりの激しいワイキキで長い歴史を刻んでこられたことはすごいことだなと思いますし、職人さんやお客さま、皆さんに感謝ですね」と、感慨深い様子。

お店の長い歴史の中にはさまざまなエピソードがあり、お店で修業した職人さんがその後、独立して「柳寿司」(ハワイの有名寿司店)をオープンしたり、長年マネージャーとして働いていて今は施設で暮らす88歳のおばあちゃんが、わざわざお店に食べに来てくれたり、何十年もの間、毎年訪れてくれる温かな日本人のお客さんがいたり……と、あげればキリがないほど。

もちろん、お寿司のお味も最高! でした。丁寧に仕込みをされているのがわかるネタはもちろんのこと、寿司飯の酢加減もトロピカルなこの地でいただくのに適したちょうどいい塩梅。日本食でありながら、ハワイという異国で育まれ、互いの良きところを馴染ませてきた賜物が、ここ「ふるさと寿司」の味わいなのだなと実感しました。



つまみにピッタリのタコポキ。アボカドのねっとり感とタコの甘みがいい感じ。

そしてもうひとつ、この「ふるさと寿司」のすごいところは、ハワイ創業当時からずっと定休日がないこと。「60年前は、364日間お店を開けていたと祖父から聞いています」とユウコさん。その心意気は今も変わらず、お正月や感謝祭など特別期間以外は毎日営業しているそう。



お店の目の前は、ワイキキビーチ。毎日こんな感じのサンセットが楽しめます。

次回はカウンターで、まずは海鮮のつまみとともに一杯、ワイキキのサンセットを眺めつつという贅沢をやりたいと思います。

もう一度、言いますが、本当に灯台下暗しだったと反省。これからワイキキで日本食を食べたいと思ったら、いの一番にここを訪れたいと思った感激の再訪でした。またあらためて店名の「ふるさと」の意味をかみしめた時間でもありました。きっと今までたくさんの在住日本人の方々が、ふるさとを味わい、感じてきたことでしょう。どうかいつまでもワイキキで、この歴史を絶やすことなく刻み続けてくださいね~!

 

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Furusato Sushi(ふるさと寿司)
2424 Kalakaua Ave., Honolulu
Hyatt Regency Waikiki Beach Resort & Spa 1F
TEL:808-922-4991
営業時間:11:30~21:45

 

Profile

赤澤かおり

Kaori Akazawa

料理と旅、暮らしまわりのことを中心に執筆・編集を行う。ハワイ渡航歴150回以上。『THIS IS GUIDE BOOK IN HAWAII』『Travel Hawaii』(ともに主婦と生活社)、『Hawaii note ハワイ手帖』(KADOKAWA)などハワイにまつわる著書多数。近著に『人生にはいつも料理本があった』(筑摩書房)、編著に『いざ、豊島屋』(KADOKAWA)がある。
Instagram「@kaoriakazawa.akalohasunny

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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