金子敦子さんと探す、ニッポンのイイモノ Vol.3 織りと染めの美しさにうっとり「遠州」へ(前編)
この連載では、日本のさまざまな産地で職人さんによって丁寧に実直に作られてきた素敵なモノを知ってほしい! 高い品質の伝統生地や工芸品の素晴らしさや作り手のことを、もっと皆さんにお伝えしたい! そんな金子さんの熱い思いを、発売中の『新 大人の普段着<春夏編> 金子敦子さんが愛用しているニッポンのイイモノ』より一部抜粋してお届けします。第3回は世界一のシャツ生地の産地「遠州」を訪ねます。
<作り手に会いに行く!>
古く希少なシャトル織機を
守りながら前進していく
「古橋織布」古橋佳織理さん
浜名湖近くの静かな住宅街にたたずむ工場。「ここが恋焦がれる生地が作られている場所!」と推しに会う気持ちで扉を開けると、4代目社長の古橋佳織理さんが笑顔で迎えてくださいました。工場では織機の中で最も古く希少なシャトル織機20台がガシャコン、ガシャコンと音を立てて力強く動いていました。織機に取りつけたたて糸の間をシャトルという舟形の道具が通ってよこ糸を運ぶと生地が織り上がります。糸が生地になる様を目の当たりにして感動!
「シャトル織機は最新式の織機と比べて遅く、糸に負担をかけず空気を含むように織り上げるので、高密度でふっくらとした風合いとしなやかな質感になります。最新の織機に比べ20〜30倍の時間がかかることも」と古橋さん。効率化重視の現代に反して、スローなシャトル織機だからこそこんなに気持ちがいい生地になるんだと実感。加えて織機の改良を重ねてほかでは織れない生地を生み出し、海外の名だたるブランドにも採用されているそう。
遠州では古くから分業制が確立されていて、紡績や染めなど多くの工場や職人さんが関わっていますが、後継者不足や低賃金などで廃業が後を絶たないといいます。かつては1600軒以上あった機屋さんも40軒ほどに。古橋さんご自身も以前は別の仕事をされていましたが、家業の魅力を再認識し、今は産地を支えるひとりになりました。
創業して97年、動き続けてきたシャトル織機の音。特別な生地が生まれるこの音が、消えてほしくない、そう思うのです。
上/職人さんは現在4名。下/「へ通し」という8000本のたて糸を1本ずつ部品に通す作業を体験して、苦労が身にしみました。通す場所や順番を間違えると生地に傷ができてしまうので、気が抜けません。
上/「HUIS」とのコラボパンツでも使われているコードレーンコットンが織られる様子も見ることができて、嬉しかった! 下/ボイルウェザークロスや綿麻バフクロス、ダウンプルーフなど、大好きな生地がズラリ。
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ハリのある生地で立体的なシルエットが際立つ
古橋織布の「ウィーバーパンツ」
最高の着心地を追求してたどり着いたのが「古橋織布(ふるはししょくふ)」の生地。これほど風合い豊かで気持ちのいいコットンは初めてでした。なかでも今、夢中なのが「ボイルウェザークロス」。太い糸で高密度に織られていて、ゴワッとした感触が楽しい。洗いざらしでも格好いいんです。
この生地を使った「ウィーバーパンツ」はウィーバー=織る人の名のとおり、パタンナーの矢野弘子さんが「古橋織布」の職人さんのために作ったワークパンツ。道具を入れやすいよう通常より脇線(脇の縫い目)を後ろにし、ポケットを大きく、深めに。それによりお尻が小さく見えるのも嬉しい。ウエスト下のタックとひざのダーツによって、ワイドながらすっきり。隅々までこだわった一本です。 ※在庫僅少ですが9月以降に入荷予定あり。
photo:黒川ひろみ、岡 利恵子、有馬貴子
text:増田綾子
新 大人の普段着<春夏編>
金子敦子さんが愛用している
ニッポンのイイモノ
Instagram:@furuhashi.weaving
Profile
金子敦子
夫と娘との3人暮らし。60代が楽しくなる着こなしや暮らし方をインスタグラムや書籍で発信し、注目を集めている。『新 大人の普段着<春夏編> 金子敦子さんが愛用しているニッポンのイイモノ』(主婦と生活社)など著書多数。
Instagram:@55akotan
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