岡山「C&C」一田憲子さんホテル滞在記
出張や旅行で、どんなホテルに泊まるのかは、何を見て、何を食べるか、と同レベルでとても大切なんじゃないかと思っています。1日外を駆け回り、部屋に戻ってちょっとひと息入れる。シャワーを浴びて、ベッドの中で今日1日を振り返る。朝、目覚めてコーヒーを淹れて、自宅とはちょっと違った気分で自分を見つめてみる。そんな時間を快適に過ごすことは、旅先の時間を2倍3倍に豊かにしてくれる気がします。
先日『暮らしのおへそ Vol.40』の取材で、布でバケツ型バッグを創るブランド「BAILER(ベイラー)」の岩尾慎一さん、洋子さんのご自宅とアトリエを訪れました。どこに泊まろうかなあと考えていた時、岡山在住の写真家 中川正子さんに教えてもらったのが、「C&C」というホテルでした。「クリエイティブ&カルチャー」の略なのだとか。
岡山駅からタクシーで10分ほど。岡山城に程近い門前町界隈は、芸術の街としても知られ、近年では、さまざまな飲食店や家具ショップが移転してきたり、新規オープンし、盛り上がりを見せている地域なのだそう。旭川沿いに立つ築100年の建物をリノベーションし、4室だけのホテルに生まれ変わらせたのがここ。
1階にはキッチンやギャラリースペースがあり、あらゆるクリエイターがここで借り暮らしをしながら、創作活動や展示を行うことができるのだとか。たとえば、イラストレーターが創作活動をしていたり、アーティストが個展を開いたり、シェフが1日だけのレストランをオープンさせたり。
もちろん、クリエイター以外の、私のような出張者でも泊まることができ、このスモールホテルを介して、アーティストと宿泊者、街の人々が交わるような滞在の仕方を提案しているのだと言います。
「いちださんがきっと好きな感じ!」と中川さん。
レトロな狭い階段を登っていくと、2階に2部屋、3階に2部屋の客室があります。その階段の佇まいからして、もう大好き! 新品のシティホテルにはない、時を重ねた空気が、なんだかほっとするのです。
今回泊まらせていただいた部屋は、扉を入ると小さなテーブルと椅子が、窓辺に並んだくつろぎスペースがあり、奥にまるで秘密の小部屋のようなベッドルームが続いています。もちろんミニキッチンのような水場スペース付き。お茶やコーヒーをいれる場と、顔を洗ったり歯を磨く場をひとつにし、洗面所はなし。このホテルではバスタブはなく、シャワーのみです。その潔い取捨選択が、このホテルの在り方を感じさせてくれるよう。
窓から覗くと、どこか懐かしい古い街並みが目に入ります。
クロゼットはないけれどフックにシンプルなデザインのハンガーが複数常備されていたり、テーブルや椅子の木の質感が、しっとりと落ち着いていたり。部屋の鍵は、小石を藍染の紐で結んだキーホルダーがついていました。目に触れるものすべてのデザインが洗練され、でも、決して豪華すぎず、ほどよい「そっけなさ」が宿っているのが心地いい……。
取材を終えて部屋に帰ると、コーヒーをいれてひと休み。コーヒーテーブルは、パソコンをのせて仕事をするデスクにもなり、ひと部屋にいろいろな時間が生まれます。
シャワーを浴びて、美しい藍色のタオルを使い、パジャマに着替えてベッドルームへ。この部屋は、ベッドは小上がりの和室の上にベッドマットをのせたしつらえで、そのこじんまりとした狭さが、心地いいのです。繭にこもったような感覚で、ぐっすりと熟睡することができました。
朝目覚めると、藍色のカーテンを透かして朝日が差し込んでいました。フロントで教えてもらったモーニングのお店に朝食へ。
ホテルに泊まると、日常から一歩外へ出て、自分のことをひとまわり広い目で見ることができるのが、何ものにも変え難い体験だなあと思います。たった1泊でも、そんな心のどこかを刺激してくれる……。そんな空気がこのホテルには流れているなあと感じました。
岡山を訪ねるときの定宿にしたいと思っています。
text&photo:一田憲子
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岡山県岡山市北区出石町1-6-5
https://c-and-c-okayama.com/
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