大分編vol.8【秘境】窯元を訪ねる「小鹿田焼の里」
~コーディネーター・工藤まやさん~
江戸時代から続く焼き物の里は、日田市の山間にある小さな集落で、その中心部を皿山という。
そこで小鹿田(おんた)焼を守る窯元は、たったの10軒。ミシュランの星を持つレストランや、超一流のシェフからも愛される器をつくる窯元が10軒しかないなんて、信じがたいが事実であるが、実際にそうであることは、この場所を訪れた人だけが理解するだろう。
陶土を挽くための唐臼の音ばかりが響く秘境には、車一台分の幅の県道がひとつあるばかりで、しんと静まりかえり人の姿もない。
窯元はみな自宅兼で、そこに小さな店を持ち、まばらに器は並んでいるけれど、無人のところがほとんど。「すみませーん」と何度か声をかけて、お母さんらしき人がでてきてほっとする。何度も訪れたことがある私でさえ、無人になってないよね? と自分に問うてしまうぐらいひっそり。
それぐらい山奥でへんぴな場所にあり、人と会話を交わすまでは幽寂ですらある。だからこそ、ここは美しい。地に足をつけ、自然を敬い、この場所で継承されてきた小鹿田焼は一子相伝で大切に伝えられ、伝統技術を守り、変えない。
器に個人銘を入れることを慎み、小鹿田焼として世に出す潔さ。飛び鉋、刷毛目などで作られる幾何学模様は、宇宙的でさえあり素朴なのにかっこいい。
まるで、禁断の集落みたいになってきた。が、ここに住む人たち、それはそれは明るくて、緊張を強いられる仕事柄か、まあ、夜な夜な集まってみんなでよく飲む。
伝統的な小鹿田焼を繊細に仕上げる仕事が好きで、ここ最近よく寄らせてもらっている坂本庸一さんも、だいたいいつも伺うと、「いやー、二日酔いで」と笑っている。そして、たくさんおまけしてくれる。この里の人はみんな本当に仲がいい。だってここには飲み屋なんてないから、いつも集まって家飲み。シンプルライフの極みですな。
個人ではなく小鹿田焼の作り手として生きる、迷いのない手によって作られる器は、まっすぐと人の心をとらえるのでしょう、私もすっかり手中の人。私の家族もしかり。携帯も通じないプリミティブな場所で遠隔操作されながら、母の器を買い、妹の器を買う。大分県民なんだから自分で来てよねーと思うけれど、私はこの場所を訪れたくてこの役を買って出ているのかも。三つ子の魂百までというが、私と妹が二人でしていたままごとは、小鹿田焼の器が主役だった。
みんなが仲良く器をつくる里は今夏、九州北部地方を襲った豪雨で、唐臼(川の水流を利用した陶土粉砕機)が数基流され、陶土の採掘も厳しい状況にある。でもきっとこの土地に住む人たちは助け合い、励ましあい、自然を疎ましくおもうことなく、長い歴史のひとつとして、乗り切ってくれると信じている。
また伺います。今度はおまけしてもらっている場合じゃない、焼酎を手土産に。
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Profile
工藤まや
大分出身。ハワイ在住で、TVやラジオ、雑誌などで幅広く活躍するコーディネーター。インスタグラム「@mayahawaii325」から生まれたハワイのガイドブック『Hawaii Days 365』(扶桑社)が好評。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。