調布編 vol.1　まっすぐな心で作るまっすぐなお菓子「dans la nature(ダンラナチュール)」

photo：森 有未　text：小林 昭子

初めまして。東京都調布市で「m.Room(エムルーム)」という店を営む小林昭子と申します。調布はいくつかの撮影所のある映画の街、そしてお蕎麦がおいしくて、春にはだるま市で賑わう深大寺など、情緒豊かなところです。今月は、そんな調布にある、素敵なお店を全４回にわたりご紹介します。

深大寺にほど近い住宅街のなかにある、ひときわ白くてかわいいお家。そこが、焼き菓子のお店「dans la nature(ダンラナチュール)」です。

もう何年前になるでしょうか。初めて出会ったとき、なんてまっすぐなお菓子なんだろうと思いました。特に個性的なビジュアルというわけではなく目立たないけれど、なぜか気になり手に取ってしまうのです。食べると、すうっと体になじむその感覚もなんとも好ましい。

そのころは、都内のセレクトショップや家具屋さんなど、素敵な場所で、ときどき見かけるお菓子でした。そんな「dans la nature(ダンラナチュール)」さんが、うちの近所でお店を始められると知ったときは、それはそれは嬉しかったものです。いつも前を通るたび、今日は開いてるかなとドキドキしながらのぞき込みます。開店日が多くはないので、なかなか会えない恋人のよう。扉をあけて中に入るとすぐ、木の棚に焼き菓子が、ずらりひしめき合っています。かなりの種類がありますが、そのどれもがシンプルで誠実。それぞれ主役級の存在感を放ちます。

選ぶのに迷いつつ、今回はこのセレクトにしました。 左から時計回りに、ヘーゼルナッツショートブレッド、サブレ(バター)、プレーンマフィン、ラムレーズンとピーカンナッツのパウンドケーキ、フロランタン。

お菓子づくりの好きな方なら、同じように作れる気がしたりするかもしれませんが、食べてみるとそのクオリティの高さがわかります。ひとつひとつ「これぞ！」という究極なのです。その美味しさの原点は、店主・千葉奈津絵さんの子供のころの記憶なのだそう。お母さんと一緒に作ったお菓子を、お父さんが食べてくれたこと。美味しいね、と言ってもらえるのが嬉しくて仕方なかったこと。そんな記憶が、まっすぐな愛あるお菓子を育てたのでした。

「なにかで飾るのではなく、たとえばパウンドケーキの切り口を、できるかぎり丁寧に切って、包むということを心がけています」

この言葉からも千葉さんのお菓子の優しさと愛が伝わってきますね。

棚には、紅茶や珈琲、石鹸なども置かれています。ひとつずつ、出会いのストーリーがあるそうです。これはいい、この人はいい、そんな直感が外れることはほとんどないのだとか。豊島という小さな島で作られた、塩やジャムなどもならんでいます。奈津絵さんは、瀬戸内海にある小さなその島、豊島が大好きなのだそうです。瀬戸内海のおおらかな太陽のぬくもりを感じます。

お子さんが誕生してからも、お店を続けてこられました。人気店なので、いつ行ってもお客様はひっきりなしです。

けれど最近、奈津絵さんには心境の変化が生まれてきているそうですよ。 「子供との時間を大切にしたいと思うんです。そのために卸はしばらく休んで、販売はお店だけにして、本当に作りたいシンプルなお菓子を作ろうって」

そんな素直な思いも、奈津絵さんらしいなと思います。

「dans la nature(ダンラナチュール)」のお菓子は、まちがいなく美味しい。それは、誰かがいいと言ったものじゃなくて、いつも自分の感覚を信じる人が作っているからだと思います。愛情から始まったお菓子は、これからもきっとずっと美味しいにちがいありません。

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