素朴で“映える”向島名物「言問団子」
●名物菓銘が通りや橋の名に
江戸のおわり、風光明媚な地として名を馳せた向島で大名屋敷などの作庭を請け負っていた外山佐吉。本業のかたわら、この地を訪れる行楽客に向けて、団子や茶でもてなす店をはじめます。これが今に受け継がれる向島名物、「言問団子」のはじまりです。
在原業平が東下りの際に詠んだ「名にし負はば いざ言問わむ 都鳥 わが思う人は ありやなしやと(意訳*都と名がつく都鳥ならば教えておくれ、都にいる私の想い人が元気かどうかを)」との句から名がついた、言問団子。団子によくあう静岡産川根茶とともに/690円
長命寺に隠棲していた友から、在原業平の古歌にちなみ「言問団子」に、との助言をうけて初代・佐吉が名をつけたところ、風流な菓銘が話題をよび名物菓子になったそう。そして有名になりすぎた菓銘は、通りや橋、または小学校の名前にまでなったというから驚きです。
創業のころと変わらぬ地で商う「言問団子」。
初代、二代目は文人墨客との付き合いも多く、名のある書家が揮毫した看板なども飾られている。
●愛らしい三色餡と餅の絶妙なハーモニー
今では六代目店主の外山和男さんと熟練職人さんとで伝統の団子を作っています。広々とした店内では、お茶とともにお団子をいただくことができます。きめ細やかなこし餡、白さと香りを追求した白餡、白みそと赤みその風味が薫るみそ餡という、三種類の餡に包まれた柔らかな餅。口にいれると、するする溶けていく餡と柔らかな餅の心地よいハーモニー......愛でている暇もなくむしゃむしゃペロリです。団子とはいえ串にさしていないのは、中国から渡ってきたときの由来を大事にしているからだとか。
リズムよく餡と餅を手に取りまるめていく。「餡や餅の柔らかさは季節によって少し変えています。寒い時期は餡が締まるのでそれを考えて餡づくりを、餅も少しだけ柔らかめに仕上げます」
言問団子の賞味期限は、わずか一日。「添加物を使っていないから、一日たつと硬くなってしまう。本物の菓子はそういうものですから」と、ご店主は言います。だからこそ、この季節はお花見についでお店を訪ねてみて欲しい。都鳥の絵皿に三色揃った団子は、見た目にも愛らしくとても絵になるたたずまい。素朴なのに“映える”、花より団子をご堪能あれ。
大正のころ、日持ち菓子をと常連客に頼み込まれて作った「言問最中」。かわいい最中は粒餡か白餡の二種類/290円(一個)
*商品すべて税込、2019年3月現在のものです。
text&photo:森 有貴子
東京都墨田区向島5‐5‐22
TEL:03-3622‐0081
営業時間:9:00~18:00
定休日:火曜
http://kototoidango.co.jp/
Profile
森有貴子
編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。
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