糸島編vol.2 〜大人がひと息つける海辺のゲストハウス「bbb haus(スリービーハウス)」〜
photo&text:小坂章子(ライター)
青い空と海にサンドイッチされた白い建物。中に入ると、さわやかな柑橘の香りに包まれました。このゲストハウスを手掛けたのは、福岡では知る人ぞ知る1991年開業の雑貨店「B・B・B POTTERS(スリービーポッターズ)」。カフェやギャラリーを併設したショップは、実は私の自宅の徒歩圏内にあり、何をするでもなくぶらりと足が向きます。
そんな「B・B・B」のゲストハウスが糸島に誕生したのです。スタイリッシュな空間を想像しつつ足を踏み入れると、ここは地中海かという開放感と和みに満ちていて、まるで大人の避暑地。オーナーの石井風子さんを前に、つい「夢のような空間ですねえ」と興奮して告げると、石井さんも「そうでしょう。私もここに来るたびに、ああ、いいなあって毎回嬉しくなるんです」と、心からの笑顔。「デザインホテルでも、リゾートホテルでもない。海辺のゲストハウスと呼んでいます」という言葉に、早くも納得です。
ヴィンテージや定番の現行品を取り混ぜてコーディネートした5室は、必要最小限の家具が配されていて、プライベート感たっぷり。室内だけで完結するのではなく、まわりに広がる自然ごと、独り占めしているような豊かさに包まれています。ベッドの壁の色彩も、部屋によってさまざま。
「四角い真っ白い箱に家具を置いていって、しっくりくる色を一面だけ塗ってみたんです。夜、ライトで壁を照らすと、部屋じゅうがその色に包まれるんですよ」と、ワクワクした表情で楽しみ方を教えてくれる石井さん。オーナーという立場を超えて、この糸島の地に根ざす空間を楽しみ、慈しみ、愛しているのだなあという純粋な気持ちが伝わってきました。
ゲストハウスの計画は、自然のなりゆきだったといいます。社員が考える未来計画の中で夢を語り合った際、「糸島で何かがやりたい、物販だけではなく、何か広がりを持たせられる形で」という意見が出たそうです。さらにオーナーである石井夫妻にも、「この25年間で雑貨やインテリア、家具までを手がけることになったけれど、ただ売るだけでいいんだろうか。実際に使って体感できるゲストハウスのような空間が作れたら」という長年の想いがありました。じゃあ、一歩、踏み出してみよう。そう決めた時、玄界灘の水平線と空が広がるこの地に建つ1970年代の建物と出会ったのです。
建物の隣には、浜辺へと続く小道があり、光に包まれた森のトンネルを歩くことができます。「初めてこの海の景色を前にした時、ああ、ここでなら私たちが思い描いていることがやれるかもしれないと思えたんです」
国定公園内にあるため、もとの自然環境や建物を最大限に生かす空間づかいを構想。限定5部屋の宿泊施設を軸に食事ができるレストラン、お土産が買えるショップという構成が自ずと生まれました。
葛西薫氏によるデザインというロゴマークは、看板以外にマグカップやアロマスプレーなどのグッズにも。「bbb haus」の眼前に広がる海辺の景色が見事に表現されています。ドイツ語表記にしたのは、ドイツの美術学校「Bauhaus(バウハウス)」の理念に敬意を表してのこと。衣食住の空間を通して、美しく自分らしく暮らす提案をする「B・B・B」においても、その精神を受け継いでいきたいとの気持ちがあるそうです。
コンセプトや内装を具体化していく過程において、石井さんは、仕事の合間をぬっては、何度もこの地を訪れました。春、夏、秋、冬と一年かけて、自然に寄り添い、移り変わる景色に身を置き、どんな空間になりたがっているのか、思い巡らせてきたといいます。
「何度来ても、その良さが色褪せないんです。たとえば原っぱの草の色も絵に描いたようだし、海や空の色も、自然の光が変わるから、いつ見ても刻々と景色が映り変わる。当初、手つかずの平原を芝生にしようという案もあったのですが、こんな素敵な自然の景色を人の手で変えてしまうのは、現代人の傲慢でしかないと気づいたんです」
海の眺めもそう。一面に見渡せるのではなく、なだらかな丘で切り取られているからこそ、逆に想像が膨らんで、広がりが生まれる。糸島の地は、ありのままの自然を生かす術を教えてくれました。
多忙をぬって、関東や関西から訪れる人も多いとか。「チェックイン直後は何かしなくちゃとソワソワするそうですが、そうか、何もしなくていいんだとスイッチが切り替わると、途端に肩の力がぬけたと話す方が多いですね。日常を逃れたひとときを過ごすことで、普段の日常が新鮮に見えたり、また頑張ろうと思えたりするみたいです」
上質な休息は、新しい自分を発見する手がかりになるし、いい循環へと繋がる。実は、これまで糸島はアクティブに過ごさなければいけないというイメージが強かったのですが、「bbb haus」は、これまでにない新しい糸島をみせてくれました。
取材の最後に、海を眺めながら朝食をいただきました。まずは、赤紫色のビーツを使ったコールドプレスジュースから。身体じゅうの細胞が生き返るようで、ああ、幸せ。県内うきは市のリバーワイルドのハム、店で焼くブリオッシュなどのパン、ハチミツやヨーグルト、チーズ、サラダの野菜は、もちろん糸島産。糸島産野菜が盛られたサラダは花畑のように美しい。好きな時に好きなだけというコーヒーや紅茶のポットサービスも、石井さんが旅先のスイスの伝統的なホテルで感激したサービスを再現したとか。オリジナルブレンドコーヒーも、ドイツのロンネフェルト社の紅茶も、とても上質な味わいでした。食器やカトラリーはすべて、雑貨店で購入できる点も嬉しいですね。
海へと続く一画には、石井さんが前々から憧れていたビーチコーナーもあります。つば広の麦わら帽子、ビーチサンダル、ヨガマット、ハンモックなどがあれば、いつでも海遊びOK。見てください、石井さんのこの素敵な笑顔。海辺のゲストハウス、いつか気のあう友人と一泊してみたいものです。
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福岡県糸島市志摩小金丸1897
TEL:092-327-8020
IN/16:00〜19:00 ・ OUT/〜12:00
宿泊料20,000円〜28,000円+税(夕食朝食付き、一室2名様利用・一名様分の料金、中学生以下の宿泊は「FAMLY DAY」のみ。詳細は問い合わせを)
www.bbbhaus.com
インスタグラム:@bbbhaus1897
※ティールームや、糸島の特産品、自然派ワイン、旅をコンセプトとしたアイテムなどのオリジナルグッズが揃うパントリーの営業時間や詳細は、HPにてお確かめください。
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