糸島編vol.4 〜糸島の風土とものづくり、使い手をつなぐ「糸島くらし×ここのき」〜

地元のおしゃれさんが 案内する 小さな旅
2019.05.25

photo&text:小坂章子(ライター)

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昭和のおもかげが残る旧唐津街道沿いの商店街を歩くと、手作り感のある素敵なショップ「ここのき」が見えてきます。なんでも、2019年5月で開店10年目に突入するとか。地元内外の人に親しまれ、必要とされている証ですね。私自身、糸島のものづくり取材の際、まず立ち寄ったのがこちらでした。店内には、糸島から産地で買いつけてきたコーヒーをふるまう「Tana Cafe+Coffee Roaster」も併設されていて、地元の人たちの安らぎの場にもなっています。ものを見て、お茶して、ゆっくり滞在できる。旅人にとってもありがたい場所ですね。

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店内には、地元産の米や醤油、麹、甘酒、クッキーから陶芸家の器、革細工、アクセサリー、染めもの、洋服など、衣食住を楽しく彩る品々のほか、杉の端材、土に還る丸太の植木鉢なども販売。木のものがそばにある暮らしって、なんて気持ちがいいのでしょう。いい匂いがするし、安らぎも生まれる。そうした小さな喜びに気づくきっかけが、そこかしこにちりばめられています。店を営む店主の野口智美さんとスタッフの千々岩哲郎さんが醸し出す空気もまた温かく、買い物ついでにおしゃべりして帰るお客さまの姿も目立ちます。

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夕方まで工房で作業をしていたという店主の野口さんに、お話を伺いました。
「ここのき」という店名は、「生(き)」という意味が先にあって命名したとか。「飾らずに、そのまんまでいられる普段の暮らしを大切にしたいという思いがあって、名付けました。あとになって、「き」には「喜」とか「気」とかいろんな意味をもつんだなあと」
野口さんが故郷の糸島で店を開いたのは、「山を元気にして、守りたい」という気持ちが発端だったといいます。雑貨屋を営んでいた熊本から帰郷し、糸島市木工体験実習館「トンカチ館」で働いた時、自然豊かな糸島ですら、山は整備されることもなく荒廃する一方という状況を知ったのです。自ら木工機械を使い、製材できるようになると、地元の間伐材を売るにはどうしたらいいか、断絶している山と街との距離を縮めるにはどうしたらいいか、真剣に考え始めるようになりました。

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「木を買ってください」といっても、ハードルが高い。それならば、地元の木を使った生活道具を、糸島の作り手と一緒に作り、日常生活に取り入れる提案から始めてみよう。自身も3人娘のお母さんである野口さんは、日々の暮らしを楽しくするものづくりを作家さんとともにゼロから作り上げていったのです。「ここのき」は、やがて多くの人との出会いによって、種から芽吹き、幹を太くし、葉を茂らせ、そして生まれた日陰を求めて多くの人々がやってくるようになりました。店に入ってすぐ、振り返って上を眺めてみてください。絵本作家の方による「ここのき」成長記が飾ってありますよ。

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現在、野口さんは、日々工房に通い、店で販売するDIY木材キットをせっせせっせと作っています。スタッフの千々岩さんが言うには、「工房にいるのが、野口にとっては、いちばんの生き甲斐みたいです」。
店でも好評のキットは、6ステップで簡単に組み立てられる杉材の「ロの字ボックス」。サイズカットした板に穴をあけて木ネジを打って、やすりがけするだけ。組み合わせれば家具や収納にもなり、重宝します。
「木の家具というと敷居が高く感じられるかもしれませんが、柔らかくて軽い杉材なら誰でもできるんですよ! そのためにも手軽なキットを広めたい。もちろんプロの作家のものづくりにはかないませんが、専門技術がなくても自分サイズの家具や道具を自分の手で作れる喜びを知っていただきたいですね」

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現在、糸島には3軒の製材所があるそうですが、最近、佐賀の伊万里木材の貯木場ができて、糸島の林業にも弾みがついてきたとか。「糸島で育った木をここにやってくる街の人たちにも使ってもらいたい。そうした循環が巡り巡って、山を元気にすると思うので」
2018年3月から、季刊誌「森と生きる」の発行も始めました。糸島の木をテーマとした読み物を連載し、少しでも多くの人たちに興味をもってもらえたらと、地道な取り組みを続けています。

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店では現在、「杉の木クラフト」さんを始め、約70名の作家さんの作品を紹介。「うちでご紹介している作り手の皆さんは、気持ちが通じやすい方々。商品はもちろんですが、人としてもつきあいやすいかどうかも大切にしています」
そんなお話を聞いている途中、お菓子を作る作家さんが納品にやってきました。検品がてら、何気ないおしゃべりを交わす姿を見ていると、「一人ひとりが自分にできることを通じて助け合っていけたら」という先程の野口さんの言葉がより実感できるのでした。

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最後に、糸島の好きなところを訊ねてみると。「海とか田んぼとか山とか、いろいろとあるんですけど、私はそうだなあ、空が好きですね。広くて何かの景色と一緒にいつも空はあって。その空の下で人と人も助け合っていけたらいいなと思います」と、野口さん。今後は、「木をもっと流通させていきたい。そのためにも、手仕事の道具や家具を体感してもらえる場所が作れたら」と夢を描きます。まわりの人を応援する熱い気持ち、強い信念と行動力、そしてほんわかとした笑顔。「ここのき」の産みの親、野口さんに会いにきてください。

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