繊細さと使いやすさと 安福由美子さんの器

今日のひとしな
2021.05.30

~「文月」「道具屋nobori」よりvol.30 ~

「道具屋nobori」の最終回を飾るのは当店で一番最近、この3月に個展を行った、安福由美子さんの器です。もう店頭にはほぼ残っていませんが、是非ご紹介させてください。

実を言うと、個展まで安福さんの器を直接拝見したことが無かった私。今は殆ど店頭に立っていないのですが、たまたまヘルプで店頭に来た時に個展の納品があって初めてご対面。ダンボールから取り出して一言「え、軽い……?」。こんなに繊細な陶器ってある? ってくらい、薄くつくられていて、本当に衝撃的でした。

ひとつひとつの模様やくびれ、揺らぎが本当にきれいで、作陶されているときの指づかいや息づかいまで聞こえてきそうな、そんな器たち。

そして使い勝手についても、持ちやすさ、重ねやすさだけでなく、一点ずつ目止め加工も施されていて、きれいなものを作るだけでなく、使うときのことも考えられていて、カフェを営まれてきた安福さんだからこその心遣いを感じます。

安福さんといえば、のこの黒は、鈍い光沢があり見た目は金属のよう。重厚さがありながらもその器自体の繊細さから、はかなさのある雲母のような印象を受けます。ですが、黒だけではありません。この青みがかった不思議な白い釉のもの、これもまた良いんです。より静謐な雰囲気があり、キンと冷えた冬、それも誰も起きていない静かな朝の光のよう。

今回ずいぶんポエジーに思われているかと思います。いや私も思っています。でも、そんな詩的な表現をしたくなるような器ばっかりなんです。

と、ここでいつもの調子に戻ってしまうのですが、個人的に大好きな器について話させてください。そう、このちょこんとついた足がなんともキュートな脚付の器たち。ならべると小さな生き物のようで、手のひらに乗せるともう……もう……連れて帰りたい! 語彙力がないと思われてもいい、ただただ、かわいい。写真はないのですが、白い釉のものはよりちいさな‟生き物感”があって……。

しょうもない話は置いておいて、話を少し過去に戻します。

初めてお声かけしたときのこと。すでに展示の予定が詰まっていて、お忙しいにもかかわらず「再来年の3月なら空いてます!」と快く個展の依頼を受けてくださった安福さん。その時2019年。再来年ってことは、2021年? ……正直、実感が沸かない。けれど、2年後の楽しみが出来たね、なんて話したものです(ちなみに、その時声をかけたのは、個人的にも安福さんのファンだという「文月」のコラムを書いているスジノ。大喜びしていました)。そして迎えた2021年。こんな状況にも関わらず本当に300点以上の大容量のボリュームで納品して頂き、本当に感謝しかありません。

すこしだけ、情報解禁。今回よりも独創的な作品をメインとした個展の企画をしています。先の話で、時期などいろいろ未定ではありますが、どうぞお楽しみに。



今回、全31回の内15回あった「道具屋nobori」分のコラムを読んでくださった方は薄々感づいているかと思いますが、私はなかなかに「丁寧なくらし」をしているタイプの人間ではありません。

でも本当は……私ほど無頓着でないにせよ……そんな暮らしに憧れつつも、日々生活をまわしていく「ふつうのくらし」をしている人の方が多いんじゃないかと思うんです。そうであってほしいという願望もありますが。そんな「ふつう」を悪いと思ったことはありません。

むしろ、そんな暮らし方をしている自分のことは結構好きだなと思っています。丁寧なくらしを営んでいる人が羨ましくないかといえばウソになりますが、私の場合はきっと性に合わないので、上手な人の暮らしぶりを雑誌やSNSなどで眺めているのがたのしいのです(そして、ごくたまに、真似できそうなところだけ取り入れてみたりして……)。

私みたいなタイプの人間が素直に思ったことを書き連ねていることで、かつての私のように「ひとまずふつうに暮らせてるから現状維持」な方でも、ちょこっとだけ、道具との距離が縮まったらうれしくおもいます。


text: ヨシタケ(道具屋nobori)

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文月/道具屋nobori

「文月」
住所:東京都台東区寿3-7-1
営業時間:11:00~18:00
定休日:水曜日
https://fuzukikuramae.stores.jp/
instagram:@fuzuki.kuramae

 

「道具屋nobori」
住所:東京都台東区寿2-9-17
営業時間:11:00~18:00
https://fromafar.stores.jp/
instagram:@douguya_nobori

 

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