【Day4】おしゃれな常滑焼の急須で、おいしいお茶を
“家ごはん”が増えた今、おすすめの台所道具をご紹介する特集、4日目。ガイド役は、創業334年、暮らしの道具の老舗・静岡市「三保原屋本店」九代目当主の堀 高輔さんです。
Day4 急須
堀さん(以下、堀):昨年から、急須に対するお問い合わせが増えているんです。
編集部:へぇ。最近は、急須がないお宅も多いと聞きますから、ちょっと意外です。
堀:恐らく、在宅勤務が増えたことが関係していると思います。仕事の間に、ひと息つきたいとき、職場ではカフェでコーヒーを買ったり、ペットボトルのお茶を買ったりしますよね。自宅で仕事をすることが増えて、「それなら自分で淹れてみようかな」となったのではないでしょうか。「仕事の間にコーヒーやお茶を淹れるのが、いい気分転換になる」「せっかくなら、美味しく淹れられる道具がほしい」と来店してくださるお客様が増えました。
編集部:その気持ち、わかります。私も在宅勤務でお茶を飲むことが増えました。コーヒーだけだと飽きちゃうんですよね。そういえば急須ってコーヒーメーカーに比べて、選び方を教わる場面が少ないですね。雑誌でも、コーヒーの道具は度々特集されるけれど、急須の特集はあまり見ません。選び方の基準ってあるんでしょうか?
ポイントは「茶こし」のタイプと大きさ
堀:今日は今のライフスタイルに合う、3つのタイプをご用意しました。ひとつ目が昔から急須の産地として知られる常滑焼の急須。次に最近、増えているポット型の磁器。旧来の急須は持ち手が横に着いているのに対して、注ぎ口の後ろに持ち手がある“後手型”です。最後にお手入れがラクなガラス製のポットです。
編集部: それぞれの特徴を教えてください。
堀:ポット型の磁器は、茶こし付きのものを用意しました。茶こし付きが、茶葉の始末が一番簡単です。容量も大きく、日常的にたっぷり飲みたい方向きですね。容量があっても注ぎやすいように後手になっています。
蓋と茶こしが一体になっている「KINTO」のガラスポットは、中で茶葉がしっかり広がり、視覚的にも楽しめます。茶渋や香りが付きにくいのもガラスの特徴です。
(左)ステンレスの茶こしがあれば、茶葉をかき出す必要がない。容量も大きいので日常的にたっぷりお茶を飲みたい人向き。(右)蓋と茶こしが一体になった「KINTO」のティーポットは、パーツが少なく、茶渋や匂いが付きにくいガラス製なので、お手入れがラク。
編集部:茶こしが付いていると、確かに後片付けがラクですね。
堀:便利をとるか、美味しさをとるか、がひとつの基準になりますね。美味しさを追求するなら陶器の急須をおススメします。特にこちらは「急須といえば常滑」と言われるだけあって、美味しいお茶がいただけますよ。実際に淹れてみましょう。
編集部:常滑焼=朱色というイメージがありますが、シックな色目のものもあるんですね。
堀:最近はモダンな常滑焼も増えているんです。モノトーンでシンプルな形ですから、年齢性別を問わず使っていただけると思います。見た目がいいだけでなく、美味しく淹れられる造りになっているんです。順番にご紹介しましょう。
美味しさを引き出すポイント
① 陶製のメッシュで金気がなく、茶葉が広がる
本体と一体となった陶製の網が茶葉をキャッチ。金属の茶こしがいらないので金臭くならず、急須の中で茶葉が気持ちよく広がる。
② 手になじみ、蓋がぴったり密着
片手でしっかりホールドでき、本体と蓋の間に隙間がないので、傾けても液が漏れ出ない。
③ 最期の一滴まで注ぎ切れる
旨味が凝縮されるといわれる最後の一滴まで注ぎ切れる。急須に液体が残らず、二煎目も美味しく淹れられる。
編集部:気持ちいいくらい、ピタッと注ぎ切れますね。
堀:蓋が本体にピチピチに密着しているから、垂直に傾けても、上下に振っても隙間から液漏れしないんです。焼き上げの際、本体と蓋の縮小幅を計算して作ってある証です。そもそも、急須は本体のほかに蓋、持ち手、注ぎ口……と、たくさんの部品があるので、焼き物の中でも技術が必要なんです。
編集部:なるほど。湯呑とかお皿に比べたら複雑な形ですものね。急須の一大産地として技術を継承してきたんですね。
堀:味はいかがですか?
編集部:深みがあるのに、渋くない。ほどよい甘みを感じます。お茶のうま味がしっかり抽出されている感じがします。
合わせて揃えたい”湯冷まし“
堀:ところで、煎茶を淹れる際は沸騰したお湯を一旦、“湯冷まし”にとって適温にするといいといわれますよね。わが家では、お茶の濃さを均一にするのにも“湯冷まし”を活用しています。
編集部:と、いうと?
堀:来客時など、多人数のお茶を淹れる場合、一煎目に淹れた人と二煎目の人で味が変わってしまうことがありませんか?
編集部:あ~、回し注ぎをしても、濃さに差ができてしまうことがあります(苦笑)。
堀:そんな時、一旦この湯冷ましにお茶を注いでから銘々に分けると、味の偏りがなくなりますよ。この急須は、デザインと機能性を兼ね備えているので、日常はもちろん、来客時にも、活躍してくれると思います。
湯冷ましに一旦、注いでから銘々の器に注げば、お茶の味が均一に。
編集部:確かに、こんな急須でサッと美味しいお茶が出せたら“素敵な大人”といえそう。
堀:美味しいお茶を淹れるには、茶葉がいいことも大切です。私は、100gで1000円以上がひとつの目安と考えています。毎回3~5グラム使うと、だいたい1か月ほどで飲み切る量ですね。これを高いと感じるか、安いと感じるか。ペットボトルのお茶も便利ですが、自分の手で淹れたお茶は格別です。
編集部:家で過ごす時間が増えた今だからこそ、もっと気軽にお茶を楽しめるといいですね。急須の中で茶葉が気持ちよく広がるのを待つ……。ほんのわずかな時間でも、気持ちにゆとりが生まれそうです。
●まいにちの急須(常滑焼の急須) ¥7,150(容量約250mℓ、注ぎ口を含み約12.5cm×持ち手を含み約15.5cm×高さ約7.5cm)
●常滑焼の湯冷まし ¥5,610(容量約250mℓ、注ぎ口・持ち手を含み約14.8cm×高さ約7.5cm)
●es pot(後手のポット) ¥3,300(容量約500mℓ、注ぎ口・持ち手を含み約14cm×高さ約11.6cm)
●「KINTO」ワンタッチティーポット ¥2,420(容量約460mℓ、注ぎ口・持ち手を含み約14cm×高さ約10cm)
撮影:三村健二
【編集後記】
ここは、「三保原屋本店」の半地下1階にある“茶こし”コーナー。本編では“美味しいお茶を淹れる”という視点で常滑焼の急須について詳しく解説していただきましたが、静岡県では、お茶の消費量が多いため、簡単に茶殻が捨てられるステンレス茶こしを選ぶ方も多いそう。
「お客様のお手持ちの急須に合うように各サイズ揃えています」と堀さん。ぴったりサイズが見つからない場合は、メーカーから取り寄せることもあるそう。「大手のチェーンストアさんに比べると、時間のかかる商売をしていると思いますよ」と笑いますが、専門店ならではの品揃えと手厚い接客こそ「三保原屋本店」がファンのハートを掴んでいる理由だと納得しました。
住所:静岡県静岡市葵区呉服町2-3-6
営業時間:10:00~18:00
定休日:元日・不定休
TEL:054-252-7111
http://www.mihoharaya.co.jp/mihoharaya/
三保原屋本店通販 https://mihoharaya-honten-online.com/
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