出会いの瞬間から始まる、時を織り込んだラグの物語

今日のひとしな
2025.12.01

〜「tömpa(東巴 / とんぱ)」より vol.1〜


こんにちは。「tömpa」店長の素保 晴美です。
12月の今日のひとしなでは、私の暮らしのそばにある“ひとしな”をご紹介させていただきます。旅先で出会ったもの、長い年月をともにしてきたもの。少しの傷さえも愛おしく感じるような、そんな「モノ」との関わりを、日々の暮らしの中からお届けできたらと思っています。
その初日に選んだのは、私にとっても思い入れの深いイランのヴィンテージラグ。
私がラグを選ぶときに大切にしているのは、品質だけではなくインスピレーションです。もちろん状態も見ますが、それ以上に、目の前の一枚に心がふっと動く瞬間があるんです。理屈ではなく、体の奥から湧き上がるような「これだ」という感覚。そんな風に出会ったラグは、必ず誰かの暮らしにしっくりと馴染み、長く愛される存在になる気がします。そこには、モノを超えた不思議な“ご縁”のようなものがあるのかもしれません。
当店では毎年11月から1月にかけて、数多くのヴィンテージラグを扱っています。どれも長い旅を経て、ここにたどり着いた一枚。手織りのゆらぎ、擦れた糸、少し不揃いな模様、そのすべてが、完璧ではないからこそ心に響くのだと思います。
私自身、25年以上海外を巡りながら、数えきれないほどのラグに出会ってきました。けれど、今でも心を動かされる瞬間があります。ラグにとどまらず、アンティークを販売していると、ふと「あ、このお客様の元へ行くべきものだったんだな」と感じることがよくあります。ぴったりの方のもとへ渡ったときは、思わず、いいところに嫁ぐんだな…と心の中でつぶやき、嬉しい気持ちになります。


どのラグにも、かつて誰かがそこに座り、お茶を飲んだり、子どもが遊んだり、家族が笑い合ったかもしれない日々の痕跡がそっと残っています。
織り目や色のゆらぎ、擦れた糸ひとつひとつに、そんな暮らしの気配が感じられるのです。新品には決して出せない、時間の温もりが宿った美しさ。


色の濃淡にかかわらず、鮮やかで美しいラグは、どんな家具やお料理のそばにも自然に馴染み、日常の空間を豊かに彩ってくれます。立って眺めるだけでも、座って触れるだけでも、生活の中に小さな喜びや安心感をそっと添えてくれる。そんな存在となり、帰宅するのが待ち遠しくなるほどです。


イランの遊牧民の手によって織られたラグには、その土地の風や光、祈りが込められています。赤土のような朱、草木染めの深い藍、光を受けてわずかに揺らめく金茶。
それぞれの色が、彼女たちの記憶や感情を映すようで、眺めているだけで胸の奥にじんわりと温かいものが広がります。


ここ数年、人気を集めているトルコラグ。伝統的な手結びの技法で作られたその一枚一枚は、耐久性に優れ、しっかりとした織り目から手仕事の温かみが感じられます。青や黄色、ピンクやクリーム色など鮮やかで豊かな色彩が特徴で、色の濃淡や陰影の変化によって、敷くだけで空間に豊かな表情をもたらします。
模様も魅力のひとつです。幾何学的な文様や花や葉をモチーフにした伝統柄は、時代を超えて愛されてきたデザインで、現代の暮らしにも自然に馴染みます。ウールやコットンなどの素材は柔らかく、踏み心地もよく、床に敷くだけでなく壁掛けやインテリアアクセントとしても楽しめる万能さも魅力です。


東巴という店名の由来は、私が若かりし頃に旅した中国・雲南省での経験にあります。そこで出会った少数民族の人々の暮らしや文化に触れたことが、私の人生に大きな影響を与えたのかもしれません。それ以来、民族色の強いものや手仕事のぬくもりを感じられる品々に、自然と心惹かれるようになりました。そんな私が厳選するものは、どこか民族色を感じるものが多いです。



寒い季節、部屋に薪ストーブを灯すと、ゆらめく炎の温かさが空間を満たします。そんな時、ラグを床に敷いていると、温もりがさらに増し、足元から心までほっこりと包まれます。


赤色はイランやペルシャ文化で「生命」「幸福」「富」や「祝祭」の象徴として用いられることが多く、家を飾るラグにもその願いが込められています。


日本の家屋でラグを選ぶとき、サイズや家具とのバランスはやはり大切です。大きすぎると部屋が窮屈に感じられ、小さすぎるとラグだけが浮いた印象になることもあります。リビングやダイニングなど、置く場所によって最適なサイズを考えることは、毎日の暮らしの心地よさに直結します。

それでも、私がラグを選ぶときに一番大切にしているのは、心がふっと動くかどうかです。色や柄、手触りや風合いに惹かれる瞬間があるかどうか。特にヴィンテージラグは、長い年月を経て人々の暮らしに寄り添ってきた独特の表情を持っています。だからこそ、サイズを考えながらも「このラグと一緒に暮らしたい」と感じる直感を信じて選ぶことをおすすめします。

展示会や企画展のご案内は、随時こちらからお知らせいたします。ぜひInstagramもあわせてご覧ください。 

 

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tömpa(東巴 / とんぱ)

静岡県湖西市新居町新居2731
TEL:053-594-8633
営業時間:11:00〜17:00
定休日:日・月
(※展示会期間中は日・月も営業 / 最新情報はSNSを確認)
Instagram:@tompa_japan
(※営業日や展示会・料理教室などWSについては随時Instagramでお知らせ)

Online Store:
https://www.83com.com/
https://tompa-antiques.stores.jp/
https://www.rakuten.co.jp/tompa/

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