手にすると心が静まる、能登千加重さんの漆の茶杯

今日のひとしな
2025.12.15

〜「tömpa(東巴 / とんぱ)」より vol.15〜


益子で作陶を続ける能登千加重(のと・ちかえ)さんは、陶と漆を重ね合わせる独自の手法で、静かな深みをたたえた器を生み出しています。陶の堅さと、漆のやわらかさ。異なる素材が出会うことで、手のひらにおさめた瞬間に、どこかしっとりとした温度が感じられます。


漆は、古くから日本の暮らしに寄り添ってきた素材です。木の器や膳、そして修繕にも用いられ、「育てながら使う」という文化を今に伝えています。使いはじめの頃は少しつややかで、光をやさしく返しますが、年月を重ねるうちにその輝きは静まり、しっとりとした奥行きが生まれます。能登さんの茶杯もまた、そんな“時のうつろい”を美しく受け止める器です。


手に取ると、表面の漆が指にやわらかく吸いつくように馴染み、口をつけたときの当たりは驚くほどやさしい。熱いお茶を入れてもどこか落ち着いた手触りがあり、まるで器そのものが呼吸しているようです。


陶の素地には益子の土を用い、その上に漆を重ねることで、土の素朴な表情と漆の静かな艶が響き合います。同じ形であっても、漆の濃淡や光の映り方はひとつひとつ異なり、まったく同じものは存在しません。下の写真は、1280℃で本焼きした後、約900℃まで炭に埋めて三度目の窯焼きを行い、その後、水に浸けて灰汁を抜き、サンドペーパーで磨いた工程の様子です。


能登さんの手の動きと、その日の空気や湿度さえも作品の表情に映り込みます。それが、工業製品にはない“ゆらぎ”であり、日々の暮らしの中にやさしく溶け込む理由なのだと思います。


弊店でもお取り扱いのあるガラス工芸家・能登朝奈さんのお母様でもある千加重さん。以前、朝奈さんの個展の折にご紹介いただいたことをきっかけに、お二人での二人展を開催させていただいたご縁があります。母と娘、それぞれに異なる世界を持ちながらも、器の根底に流れているのは“暮らしに寄り添う静けさ”という共通の感性。そこに、益子という土地の空気が確かに息づいているように感じます。


能登千加重さんの漆茶杯は、手にするたびに自分の時間をゆっくりと取り戻させてくれるような器です。お茶を注ぐ湯気の向こうに、静かな艶が浮かび上がり、一日の中にほんの少しの安らぎを灯してくれます。


漆は塗る季節や湿度によって色味がわずかに変化し、その時々の空気までも閉じ込めたような表情を見せてくれます。同じ形であっても、漆の濃淡や光の映り方、仕上がりの風合いが一つひとつ異なり、まるで生きているように感じられます。
また、入荷のたびにサイズ感やかたちを少しずつ変えて発注しています。弊店では店舗とオンラインショップの両方でご紹介していますが、どの一点にも、手仕事の静かな息づかいが宿っています。長く使うほどに、手に馴染み、艶を増し、暮らしの風景の中に穏やかに溶け込んでいくそんな今日のひとしなのご紹介でした。



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tömpa(東巴 / とんぱ)

静岡県湖西市新居町新居2731
TEL:053-594-8633
営業時間:11:00〜17:00
定休日:日・月
(※展示会期間中は日・月も営業 / 最新情報はSNSを確認)
Instagram:@tompa_japan
(※営業日や展示会・料理教室などWSについては随時Instagramでお知らせ)

Online Store:
https://www.83com.com/
https://tompa-antiques.stores.jp/
https://www.rakuten.co.jp/tompa/

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