小さな家族のお守り「猫の迷子首輪」
~ musubi(むすび)より vol.23 ~
猫は12年生きると化け猫になるという言い伝えがあるらしい。我が家の一代目・ひじきは12歳の誕生日近くに化け猫になることもなく、あっさり潔く天に旅立った。猫と暮らせば、いつかはくる別れと知っても、その日を想像することは辛く難しい。
大きな通りの緑に囲まれた家の周りを自由に散歩していた彼が、初めて首輪をつけたのはノラ猫たちとの無用の喧嘩を避けるためだった。万が一の事態に備えて、名前と電話番号を書き込んだ小さな紙を入れたカプセルをつけていたけれど、気づいた時には文字は消えかかっていて、結局のところ一度も使われることはなかった。
猫という生き物と暮らすことを一般的には「飼う」とか、一緒に暮らす人間を「飼い主」と呼ぶが、飼い主は決して主人ではない。猫の主人はあくまで猫自身であり、主従関係なんかにはハナから興味がない。
まぁ、強いて言うならば、飼い主とはせいぜい「世話人」といったところか。それでも一緒に暮らせば、喉をゴロゴロ鳴らしたり、手をペロペロと舐めたり、ビヨーンとお腹丸出しの寝姿を見せたり、彼らなりの方法で信頼や愛情を示してくれる。それは世話人にとって至上の喜びと幸福に他ならない。
猫の一日は「くう・ねる・あそぶ」。一緒に暮らす世話人として彼らにしてあげられることといえば、美味しく健康的な食事と、清潔で安全な寝場所とトイレを用意すること、そして一緒に遊ぶこと。遊ぶといってもダンボール箱や、荷造りひもなんかが彼らの格好の遊び道具になって、たいした物は必要としない。服も着ないし、散歩は勝手にする。傍にいる人間がしてあげられることといえば、命を守ることのみ。
猫が失踪、運良く保護された場合、名前と連絡先がわかるかどうかでその子の運命が劇的に変わることがある。再会できたら、たとえもし再会できなくても、どこかで命を繋いでくれたら。
名前と電話番号は、経年変化で消えてしまうことのないようレザーに刻印、いざという時に外れるセーフティーバックルを使用した猫の迷子首輪。植物に含まれるタンニンを利用して、イタリアに古くから伝わるバケッタ製法で作られた革は、時間をかけてゆっくり牛脂を浸透させているので油分が抜けにくく、使い込む程に色が変化し艶が出て風合いが増す。
一代目・ひじきをこよなく可愛がってくれた「モリサキ靴工房」の森崎さんが、何度も、何度も試作を重ねて出来上がったもの。その後、縁あって家族になってくれた二代目・トトにはナチュラルカラーの首輪を。小さな家族の、お守りのような首輪です。
普段の暮らしに、ささやかだけれど美しく、しっかり寄り添ってくれる日用品や雑貨をセレクトしたお店。「今日のひとしな」の執筆は、店主の坂本眞紀さん。
東京都国立市富士見台1-8-37
TEL:042-575-0084
営業時間:12:00~18:00
定休日:日、月曜
WEB:http://www.musubiwork.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/musubiwork/
instagram:https://www.instagram.com/musubi_work/
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