岩舘隆さんの漆椀「浄法寺椀」
~ musubi(むすび)より vol.24 ~
岩手のちょうど真ん中あたり、早池峰山の麓近くに祖父の家があった。ふたつ上の兄がいる私は、母の里帰り中にその土地で生まれた。そのせいばかりではないだろうけれど、兄妹の中で一番のおじいちゃん子だったようだ。
祖父の家はいつも木の匂いがした。山に入り、木を刈り、こしらえた木材でいろいろなものを作っていた。祖父は漆塗職人だった。その祖父を父に持つ母は、漆の木に触れてもほとんどかぶれることがなかったという。漆の器も、ハレの日のものではなく、日々の暮らしにふつうにある日常のものだったのだろう。
孫の私も、漆にご縁をいただいたのだろうか、今に至るまで触れる機会が多くあった。そうした中でいつかはこれを自分で使いたい、と憧れた器が浄法寺のものだった。
「うるし」という言葉は「うるわしい」と関係があるらしい。「うるわしい」とは「精神的に豊かで気高く、人に感銘を与えるさま。心あたたまり、うつくしいさま」そう表されるように、手にする度に心あたたまるような美しい漆の椀が、我が家の食器棚に並んでいる。
国産漆の最大産地、岩手県浄法寺町で採れる良質の漆を使って作られる椀は、仕上げの研磨を施していないので光沢が抑えられ、控えめな印象を持つ。初めはマットな質感が、使う程に自然に磨かれ、つややかに変化していくことから「浄法寺塗の仕上げをするのは使い手」と言われる。
写真左の朱は、下塗りから漆にベンガラを混ぜた朱漆を使って仕上げたもので、食卓が華やかな印象に。写真右の溜塗りは、ベンガラを混ぜた漆を塗り重ねた上に、透き漆と呼ばれる半透明の漆を塗って仕上げられたもので、使う程に少しずつ下の朱色が顔を出し変化する。
ゆったりと懐が深く、腰の張った形は浄法寺の伝統の形。こども、小、中の椀を重ねると親子のようにも見える。お食い初めのお祝いに、初めての漆器にもおすすめです。
普段の暮らしに、ささやかだけれど美しく、しっかり寄り添ってくれる日用品や雑貨をセレクトしたお店。「今日のひとしな」の執筆は、店主の坂本眞紀さん。
東京都国立市富士見台1-8-37
TEL:042-575-0084
営業時間:12:00~18:00
定休日:日、月曜
WEB:http://www.musubiwork.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/musubiwork/
instagram:https://www.instagram.com/musubi_work/
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