「令和の家具辞典」5月連載は人気ショップ「ICCA」

令和の家具事典
2024.05.01

※Come home! webに掲載された記事を転載しています


「婚礼家具」という言葉があった昭和から、時代は平成、令和へ。住空間もライフスタイルも、多様になった今、わが家にぴったりの家具ってどんなもの? どこに行けば出会えるの? そんな疑問にお答えするために、今の時代におすすめしたい家具ショップを編集部がキュレーション。店主の方に1か月にわたって、家具の魅力を語っていただきます。「come home!」本誌でも人気を集めた和家具の店「ICCA」。まずはショップの様子をご紹介しましょう。

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色をそぎ落とし、
時には解体して作り替える——
現在の暮らしに合わせて
アップデートされた
大正時代の和家具が並びます



ソファやショーケース、ローテーブルのほか、書棚や鏡など、さまざまな家具を扱います。多くは大正時代に作られたもの。


「ICCA」が生まれたきっかけはひとつのランプでした。オーナーの酒井立朗さんが古道具店を訪れたときのこと。黒い鎖に丸いシェードがついたランプを見かけ、その美しさにひき込まれました。調べると大正時代のもので、こんな洗練されたデザインが当時あったことに驚いたとか。酒井さんが感じたのは、欧米のアンティークとは違う日本らしい潔さ。「欧米のエッセンスを取り入れながら余計なものはそぎ落とし、品よくまとめているのは日本ならでは。この美しい意匠を途絶えさせないよう、5年前に店を始めました」


今は月1回、予約制でショールームをオープン。「ICCA」の家具をゆったり見られるほか、工房の様子も見学できます。

工房を兼ねた店では職人によるリペアの様子も



熟練の職人が家具を診断。腐食して使えない部分をそぎ落とし、古材などを用いてていねいにリペアします。さらに独自のデザインを加えるのがこだわり。


細部まで細かにリペアするため、使う道具の種類も大小さまざま。

ガラス戸のついた本棚をばらして、ろくろ脚をつけ、テレビボードにリメイク。発売後すぐに完売した人気商品です。28 万円。


「I CCA」の家具はひとつあるだけでその場の雰囲気を変える存在感があります。和家具を扱う店はほかにもたくさんあるなか、「I CCA」はもとの意匠を生かしながら現代の暮らしに合わせてリデザインしているのが特徴的。たとえば、海外の雑貨を取り入れた現代の住まいになじむよう、塗装ははがして明るい色合いに。素朴な棚にはろくろ脚をつけるなど、手間をかけて繊細な意匠を施します。その際、立て付けを修復したり、強度を高めるため支柱を追加したりと、機能面に気をくばることを忘れません。「I CCA」という店名は漢字で書くと一花。花を一輪飾るだけで優しい気持ちになれたり、会話のきっかけになったりするよう、和家具もそんな存在であってほしい。そのためには使いやすくなければならない。「I CCA」の家具には、そんな信念がこめられています。 


当時のデザインを研究して生まれた
オリジナルアイテムも



オリジナル家具「Lim.」は天板とろくろ脚だけのテーブル。シンプルだからこそろくろ脚の美しさが際立って。18 万1500 円~。


和家具を研究して生まれたろくろ脚。繊細で上品な大正時代のエッセンスが感じられます。

陰影の美しさにまでこだわった
オリジナル照明もラインナップ



ろくろ脚の「CocoonLight」。高さ52cm で、コーナーに置くのに適しています。59400 円。繊細な縦ラインが美しい「和菓子のようなペンダントライト」。



真鍮製のシェードホルダーは独自製法でエイジング。28600 円。



オリジナルの照明は、古い和家具ともお似合い。存在感があり、食卓をよりあたたかい雰囲気にしてくれます。


研究熱心な酒井さんは意匠性の高い大正時代の家具を集め、デザインや技術的な工夫をアーカイブしてきたそうです。そうして蓄積されたデータは今、オリジナルの家具にも生かされています。同じデザインでもちょっとした木の色みの違いやミリ単位のズレによって表情がガラリと変わるとか。「ここでも研けんさ鑽んを重ねました。そうしてようやく、この木材ならこれがベストというバランスを僕たちのなかで見つけられたんです」。オリジナル家具についているろくろ脚も、大正時代以降のあらゆるろくろ脚の形状を観察し、日本らしくてモダンな「I CCA」ならではのバランスを編み出したといいます。「1ミリでもズレると、僕らの思う美しさが出なくなってしまう。だから信頼のおける熟練したろくろ職人さんにお願いしています」。古き良き和のデザインを現代の和家具としてアップデートさせ、後世に伝えたいという酒井さんの思いが、こうしてオリジナルの家具として具体的な形になってきているのです。


店を構えるのは江戸時代に栄えた
佐原とも呼ばれる千葉県香取市
街の空気を感じながら店を訪れると
商品が使われていた当時がしのばれ
買い物がより楽しくなります



南北に流れる小野川沿いには、江戸時代末期から昭和時代前期の木造町家や蔵造りなどが軒を連ねています。



江戸時代に利根川水運の中継基地として栄えた佐原。当時の風情を残そうと、観光舟の運行も始まりました。


「I CCA」がある佐原は江戸情緒を感じる街並みが今でも残るエリア。この街にたまたま訪れた際、レトロモダンな建物が立ち並ぶその街並みを見て「I CCA」の家具が合うと感じ、店を構えることにしたといいます。「古い建物に古い和家具。どちらも時を超え、当時作った人の思いも含んであたたかな空気感を醸しています。小旅行気分でお店に来てもらえたらうれしいです」


ランプに出会うまで家具には興味がなかったという酒井さん。日本の職人技を伝えるため研究を続けています。

 

writing / Ohkatsu Kimikophoto / Kiyonaga Hiroshi
*この記事は、Come home! vol.68より抜粋しています。

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ICCA
千葉県香取市北3-1-17
TEL047-877-9087
HP/https://icca-life.com/
Instagram/@icca_life
店の営業日はHP にてご確認ください。

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