家具を長く使う・損なわれない価値とメンテナンスについて

令和の家具事典
2024.08.31

※Come home! webに掲載された記事を転載しています

***
No.30 価値ある家財とメンテナンス



長年使ってもその価値を損なわない家具と、価値が消滅する家具の違いは何かお判りでしょうか。
 日本では数多くのアーコールの中古家具が市場に出まわっており、私たちもよく目にすることができます。 そんななか、特に目に留まるのは1940年代から50年代に生産されたもの。 それらは既に生産されてから80年近い年月が経ったことになります。家具も色々あり、購入して数年でその価値を消滅し廃棄されてしまうモノもあれば、 アーコール家具のように、10年、20年どころか50年前のモノですら数万円、数十万円の値で売られる家具もあります。 その差は何なのでしょうか。
 一般的な家具は大量生産するために簡易的な組木や職人技のいらないシンプルな構造で製作されます。また、コストを考え良材や無垢材ではなく 合板や木目のプリントシート、集成材等の材料を使用して作られていきます。 そのために、塗装の剥げを修理したり、ぐら付きや布地の張り替えを試みると、修理ができない素材や構造であったりする場合があります。
 アーコール社は大量生産を可能にすることで世界でも有数な家具メーカーとなりましたが、それは蒸気で木を大量に蒸して曲木にする技術が画期的だったのであり、 過去も現在も無垢材にこだわり、一つ一つの工程は伝統的な家具作りの基本を忠実に守ることで永続的に使用できる家具を作り続けているのは変わりがないのです。 そのため、塗装の修理メンテナンスも、ぐら付きやパーツの破損にも、すぐに対応できる製品として今日まであり続けています。

価値ある家財としての家具



写真は50年前のチェア製造の様子。昔から何一つ変わらないウィンザーチェアの製造方法。

ウィンザーチェアのメイキング

 


2020年のミラノサローネの家具の展示会では1950年代に生産されたアイテムと2020年に生産された同じアイテムが背中合わせに並びました。

同じ家具でもヴィンテージ家具には秘めた魅力が、現代のモノは安定した品質が魅力的


アーコールの家具は現在も復刻されて1950年代に発表されたOriginalsシリーズが数多くあります。ただ、当時と全く同じかと言うとそうではありません。ライフスタイルが変わり、使い勝手や使用頻度、ひいては使う人のサイズまでも70年の時を経て変わっています。
 「ドロップリーフテーブル」は伸張する天板を裏から支えるバーが鉄からステンレス製に代わり、サビることなく軽量化されました。「プランクテーブル」は世界へのデリバリーや室内への搬入を考えて天板と脚部が分かれるノックダウン仕様に変更されています。使う人が大きくなってきたので、座面のシートは2000年頃からひとまわり大きなシートにデザイン変更されています。ソファ類のウェビングシートは常に最新の技術と素材のモノを、また主材も時代のなかで変化しています。これは、常に安定供給し続けることと、その時代の自然環境やコストに見合う木材を追及しているからなのです。  
 アーコール家具の場合、時代によって施されているロゴの焼き印やシールが異なったり、サイズや材種が違う事で、そのアイテムの年代や時代背景を知ることができます。古いモノの価値があるというのは、例えば、現在では到底取ることができない一枚板から座面シートを作っていたり、もったいないほどの厚い板を使った座面は、人の手によって彫り込まれていたり、その当時は豊富だった材料も、現在では到底手に入らなかったり、機械が無かった時は手仕事で作るのが当たり前だったものが、現在手仕事にしたら価格的に製作できなかったり・・・そうした理由からその価値は今よりも高く評価されるのです。


1950年代後半に製作されたラブシートの座面。 人の手でカンナを用いて彫り込まれ、板厚もしっかり。



現在では、最新の技術で木部をハギ合わせ、機械を一部用いて製作されます。 常に安定した品質で量産を可能にし、コスト面でもメリットがあるアイテムとして進化を遂げています

 

メンテナンス方法


現在アーコールの家具は環境に配慮された水溶性のラッカー塗装で全てのアイテムを製作しています。そのため基本的には乾拭きで、ふだん使いしていくことで、経年の変化をお楽しみいただけます。使い込めば使い込むほどに木部は飴色に輝きを放つと言われています。以前は、アーコール社でも専用のアーコールワックスをご提供していました。これは、ラッカー塗装をする前の製品は全てワックス仕上だったためです。木にワックスを塗って塗膜を作ることで乾燥から守り、木瘦せを防ぎ、汚れがついても自分たちでヤスリで磨き、ワックスを施してメンテナンスできることがメリットでした。ですが、ラッカー塗装に変更されてからは、工場出荷時に既に完成品として塗膜が施されるため、特に日常的なメンテナンスを施さなくても問題が無くなったのです。そのため、現在ではワックスの必要性が無いので販売もなくなりました。現在古いアーコール家具のメンテナンスには、市販の蜜ろうをおすすめしています。一度きれいに汚れをふき取り、蜜ろうをまんべんなく薄く塗りこむことで、乾燥を防ぐことができます。


2002年に移設されたアーコール社の新工場 森に囲まれ、両サイドと天井から自然光が差し込む、人と自然環境に配慮された工場です。

 

適切な修理でその価値を損なわない


全体の塗装直しやぐら付き、脚折れ等は熟練職人の適切な修理で、その価値を損なうことなく次世代まで継承できます。弊社では欠落したパーツなど現在の工場で生産できるものは英国より取り寄せて再生しています。 
 また、既にパーツが手に入らないものや、塗装などの修理修復が必要な場合は、弊社の「家具の病院」にて、修理修復、再生が行われます。「家具の病院」では家具の加工や家具の塗装の国家資格である各1級、2級の技能者がアーコール家具の修理を行います。必要に応じた的確な修理は、その家具の価値を損なわず修理後も長くご使用いただける状態にしてお手元にお戻しします。



ぐら付きのある脚部などは、新たなに楔を作製し組み直しをします。



天板のハギ割れには接ぎ木をしていきます。



座面のハギ割れは新規にダボを製作し、ハギ合わせ、椅子を組み上げていきます。

また、メンテナンスをしっかりできる環境を作り続けるのも製造や販売に携わった者の責任だと思います。ユーズドとしても世界中でファンをもつアーコール家具。それだけに、「メンテナンスをして使い続けられるモノづくり」にこだわりをもって、作り続けていることもSDGsや地球環境を考えて生活する今日ではとても大切なこと。ぜひ、アーコールの家具を1つそばに置いてみてください。その魅力はすぐにおわかりいただけるはずです。そして、大切に長く愛でてください。あなたのパートナーとして世代を越えて受け継がれる家具としての価値を毎日楽しんでいただけたらと思います。

***

現行品が見られるお店はこちら

「ダニエル」元町店

〒231-0861 神奈川県横浜市中区元町3丁目126
TEL:045-661-1171
電話受付:10:30~18:30  
定休日:月曜日
HP:https://www.daniel.co.jp/
Instagram:@yokohama.daniel

 

アーコールオフィシャルWEB
www.ercol-japan.com

※事前の告知なしに価格や商品の廃盤、デザイン変更の可能性があります

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

ページトップ