「令和の家具事典」横浜の老舗家具店「ダニエル」に「アーコール」の魅力をご紹介いただきます

令和の家具事典
2024.08.01

※Come home! webに掲載された記事を転載しています

ウィンザーチェアやスタッキングチェア、バタフライチェアなど、名作チェアを数多く生み出した「アーコール」。その日本総代理店である「ダニエル」の社長・咲寿義輝さんに、これから1カ月間、アーコールの家具やその魅力についてご紹介いただきます。第1回は、これから1カ月間「アーコール」の案内人となっていただく咲寿さんに、「ダニエル」の取り組みと「アーコール」との出会いについてお話をうかがいました。

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横浜の地でうまれた洋家具の老舗「ダニエル」



「ダニエル」の横浜元町店。大きな赤いチェアが目印。

今では、ダイニングテーブルやチェアがあるのはどの家でも当たり前の風景。ですが、もちろんこれらの洋家具は、戦後しばらくしてから日本の暮らしのなかへと普及したもの。横浜で生まれた家具の老舗「ダニエル」は、その中で大きな役割を果たしてきました。まずは、「ダニエル」の誕生とその歴史についてうかがいました。



横浜元町「ダニエル」の「アーコール」コーナー。

「横浜の中心市街地のことを、『関内』と呼ぶのをご存じでしょうか。開国以降、この地域は外国人居留地となり、たくさんの欧米人が暮らしていました。彼らは『関外』(今の元町や伊勢佐木町エリア)で生活用品をそろえるのが通例で、当時、欧米から持ち込まれた家具の修理を請け負っていたのが、この『関外』にあった元町地区です。当時の家具作りは各専門の親方職人を中心に行われ、分業で作っていました。職人というのは、船大工や宮大工、指物師たち。本職の合間に家具を作っていたんです。日本人ならではの細かな手仕事が評価され、家具製作を依頼されるようになると、その品質はますます向上。本国へ持ち帰る人もあったと言います。この地区で生産された家具は総じて『横浜家具』と呼ばれ、多いときは17店ほどあったそうです」。



「ダニエル」のオリジナルコレクション「ブーツ」シリーズ。左・ラブシート、右・ワイドアームチェア、手前・スツール。

ところが、関東大震災や戦災で、「横浜家具」の多くが失われてしまうことに。現在、当時の「横浜家具」が一般公開されているのは、GHQの本部が置かれた「ホテルニューグランド」の本館にある家具たちのみ。「横浜家具の衰退を憂えた私の祖父が、復興を目的に作ったのが横浜クラシック家具協業組合です。そこで生産された家具を「ダニエル」のブランドで世に広めていきました。その後、輸入家具とオリジナル家具両方を全国に展開していきます。余談ですが、「ペコちゃん」でお馴染みの洋菓子店・不二家も、横浜出身で、昔は家具屋さんだったんですよ」。

エリザベス女王の来日と「アーコール」



クエーカーチェア

 それからしばらく経った、1975年のこと。エリザベス2世女王が日本に初来日することになりました。日本は一気に親英ムードに。
「政府は、エリザベス女王を迎えるにあたって、イギリスの産業をもっと日本に紹介しなければと考えたんです。そこで、百貨店の高島屋さんがイギリスの家具店「アーコール」の総代理店を務めることに。その当時は、全国の高島屋に「アーコール」が置かれていました。実は当時「ダニエル」も、高島屋さんにオリジナル家具の販売と修理を請け負っていたんです」。
 1990年以降バブル崩壊や時代の変化の中で、高島屋さんは「アーコール」の総代理店を降りることに決めました。その後2003年に、駐日英国大使館の仲介のもと「ダニエル」が「アーコール」の総代理店になりました。

マーガレット・ハウエルと「アーコール」


 「ダニエル」が「アーコール」の日本総代理店を務めることになったころ、イギリスでは、デザイナーのマーガレット・ハウエルさんの働きかけで「アーコール」のスタッキングチェアが再評価されました。日本でも大きな話題になったのでご存じの方も多いはず。

 ナチュラルインテリア人気の真っただ中にあった日本でも、木材だけで作られる芸術品のような“アーコールチェア”は大人気となり、ユーズド家具が多く出まわりました。

 「僕は、目利きができる人は古いものを買うのもいいと思っています。ですが、古いものはゆるんでいたり、傷がついていたりして、品質が一定していないのも事実。その点、新品はクオリティが最高なので、この先長く使うのであれば、新品の「アーコール」をおすすめしたいですね」

スタッキングチェア

バタフライチェア

ウィンザーアームチェア

誰かのお気に入りの家具を修繕する「家具の病院」をスタート


使い捨て文化が進んだ日本では、家具を修繕して使うという文化がすっかり薄れてしまっています。そういった状況を変えたいと、咲寿さんのお父さんの代から始めたのが「家具の病院」です。


「ダニエル」社内にある工房。

【家具の病院】では、メーカーを問わず、ガタのきた家具の修繕や生地の張り替えなどを請け負っています。結婚当時に買った思い出の家具や、お気に入りの家具を手放さず、できるだけ長く使ってもらえるように。もちろん、『アーコール』の修理修繕も請け負っています」。


曲線の美しいチェアの張地を交換。シワなくピンと張りつめるには熟練の技術が必要。

「この取り組みは家具職人たちのためでもあるんです。家具の製作には、国家資格があって、家具木工、椅子張り、塗装のそれぞれに、木工1級・2級・3級と資格が定められています。『ダニエル』にはすべての資格をもった職人がそろっているんです。これはわが社の何よりの財産。腕が良くて、定年後もまだまだ働きたい職人たちを“家具の病院”のスタッフとして再雇用しているんです」。


ファブリックに型紙を当てて、張地を取っていく作業。

「実はこのほかにも、【家具の学校】というのもやっていて。こちらでは、ベテランの職人に教わりながら、家具の修復技術を学べます。2~3年で2級~3級の国家資格が取れるプログラムです。どうしてこういう取り組みをしているかというと、家具の修繕が広がって文化となれば、多少値段が高くても品質のいい家具を買って長く使おうと考えるお客さまもふえて、家具職人の需要も高まるかもしれない。そうなったら、うれしいですからね」


ろくろと大きなノミのような刃物を操って、テーブルの脚を作る職人さん。

 さて、明日から始まる連載では、「アーコール」について日本で誰よりも詳しい咲寿さんに、「アーコール」の歴史的背景を交えつつその魅力についてご紹介いただきます。どうぞ、お楽しみに。

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現行品が見られるお店はこちら

「ダニエル」元町店

〒231-0861 神奈川県横浜市中区元町3丁目126
TEL:045-661-1171
電話受付:10:30~18:30  
定休日:月曜日
HP:https://www.daniel.co.jp/
Instagram:@yokohama.daniel

 

アーコールオフィシャルWEB
www.ercol-japan.com

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