刺繍作家・a t s u m iさん(前編)~続ければ続けるほど刺繍は面白くなっていく

”つくる人”を訪ねて
2016.08.10

取材にお邪魔したのは、東京・調布にある「手紙社」の展示室で行われる「表現の学校」の開催日。テーマは「ステッチのレッスン~サンプラー(刺繍見本)が紡ぐ、刺繍の魅力」ということで、さまざまな年齢層の女性が参加されていました。

 

サンプラーとは、古くは15世紀にさかのぼる歴史があると言われている、さまざまなステッチの練習と披露を目的に作られた作品のこと。ヨーロッパの美術館や蚤の市などでも時おり、昔の女性たちが手掛けたサンプラーを目にする機会があります。このサンプラーを、a t s u m iさんがブックタイプにデザイン。道具の使い方からさまざまなステッチの技術までを学びつつ、サンプラーを仕上げていくことによって、刺繍の魅力に迫るというレッスンです。a t s u m iさんの真面目さも感じさせるひたむきなステッチが、サンプラーでも表現されています。

 

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黒板に図案を描いたり、実際にサンプルを用いながら、それぞれのステッチを解説するa t s u m iさん。針を入れる方向やステッチの幅など、ちょっとした工夫によって美しく仕上げるコツを分かりやすく説明します。参加者の方からは、刺繍をしているときの姿勢や糸の通し方といった基本的な質問も出て、積極的な意見交換も。ときには笑い声が上がり、ときには黙々と。穏やかで、豊かな時間が流れていました。

 

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「できるだけ早く、ラクチンに」と、効率的であることを求められがちな今の時代。考えてみると刺繍というものは、その真逆を行うこと。けれども、参加者の方々の心から楽しそうな様子を見ていると「豊かさ」と「効率は」決してイコールではないことを、改めて気づかせてもらえます。

 

「若い頃は生真面目で、一歩一歩納得しないと前に進めない自分の性格が、あまり好きになれなかったんです。けれど、そんな欠点のように思える部分も、刺繍をする上では利点になるんです。ひと刺しひと刺しの歩みは、決して裏切らないし、信用できる。私が刺繍を続けてこられたのも、刺繍というものの速度感が、自分に合っていたことが大きかったのだと思います」

 

“つくる人”を訪ねて 刺繍作家・a t s u m iさん(後編)につづきます

 

 


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Profile

a t s u m i(あつみ)

多摩川美術大学卒業後、アパレルメーカー、同大学に勤務ののち、刺繍作家としての活動を始める。著書に『刺繍のはじめかた』(マイナビ)『刺繍のいろ』(BNN新社)『ことばと刺繍』(文化出版局)など。2016年10月にエンブレムをテーマにした新刊が文化出版局から発売予定。http://itosigoto.com/

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