ファーマーズテーブル・石川博子さん【後編】「自分がやりたいことをきちんとやれているか?と問いかけ続けて」

”オリーブ少女”の先輩に会いに行く
2016.08.30

そばかすがチャームポイントになることも、かごのかわいさも、公園で食べるサンドイッチのおいしさも。大事なことはみんなオリーブに教わった。80年代、90年代、少女たちに熱狂的に支持された雑誌『オリーブ』。その熱狂をつくり出していた、素敵な先輩を訪ねます。

text:鈴木麻子

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お店を知ってもらうための、石川さんのもうひとつの作戦は、雑誌への売り込み。「雑誌を見ていて、気になるものに出合ったらそのクレジットを頼りにお店まで足を運ぶ、ってことありますよね? ファーマーズテーブルもそんな風に、雑誌に載ったらいいなーと思ったんです。だから、気になる雑誌を買って、クレジットを見てスタイリストさんの名前をメモ。お店の商品の写真を撮って焼き増しをして、『○○編集部 スタイリスト○○様』って書いて送りました」

そのなかには、もちろん『オリーブ』も。その後、誌面で「素敵な雑貨屋さん」として紹介されるようになり、その魅力はみんなの知るところとなります。

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↑ 「オリーブ的なものは?」という問いに、持ってきてくれたフランスのマルシェかご。オープン当時からお店で紹介してきた。「いまは、いい編み手の方も減ってきているみたいだから、きれいなかごは貴重ですよね」

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↑ 「数十年前、パリのファッションスナップとかで、かごを普段着に合わせている姿を見て、衝撃だった」と笑う石川さん。この日履いていた「ロベルタセッタ」のサンダルは、すべてハンドメイドで履き心地最高。

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↑ 「ケメックス」のコーヒーメーカーを日本にいち早く紹介したのは、何を隠そう、このファーマーズテーブル。「アメリカで暮らしていたとき、みんなが普通に使っているのを見て、かっこいいから紹介したいとお店に並べることに」


少しずつ訪ねてくれるお客さんは増え、来たら何かを買わずにはいられないお店となり、「ファーマーズテーブル」は、いまでは“老舗の雑貨店”となりつつあります。

「おかげさまで、昨年30周年を迎えました。今これが流行りだからって物を集めているわけじゃなく、基準はいつも、自分が好きかということだけ。昔は自分が見つけてきたものを、お店の中でより素敵に伝えるんだって意気込んでいたんだけど、ある時、それは違うなーって思い直しました。それぞれ、元々素敵なものじゃないですか。だから、それをありのまま、きちんと伝えることが私の役目だと思っています」

いつもある、ずっとある。
それがどんなに有り難く、そして、たくさんのエネルギーのもとに成り立っているかということを、あまたの街の移り変わりを見てきた私たちは知っています。だから、恵比寿の坂を登り、古いビルの階段をふうふういいながら上がり、重い鉄の扉を引いた瞬間、広がる「ファーマーズテーブル」の景色に心底ほっとするのです。私の30年、「ファーマーズテーブル」の30年が、確かにここにあると。

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↑ 元は電機関係の会社だったスペースをリノベーションした店内は、はがれたピータイル、むき出しの天井など、メンズライクな雰囲気。

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↑ 築50年超のビルはエレベーターなし。ひいひいと息が切れてきたころに、階段の踊り場に現れる石川さんからの黒板メッセージに元気をもらう。

「自分が年齢を重ねるとともに、お店も少しずつ変わってきたかな。決して意図的ではないけれど、変わって当たり前ですよね。始めた頃は、人にどう思われているんだろう? ってそればっかり気になってた。だから、だれかに『前と変わりましたね』なんて言われる度に、いちいち気にしていたんです。でも、人や何かと比べることに意味がないって気がついたら、楽になった。自分のやるべきことは、自分に問いかけることだけなんです。自分がやりたいことをきちんとやれているか? ってね」

「たまに、お店を開きたいという若い人から相談を受けるんだけど、そういう人には、始めちゃったほうがいいよって言うんです。自分の持っているお金でできる範囲でとりあえず始めて、やりながら修正して正解を見つけていけばいいんだから。そんな風にして、私も今日に至っているなあ。ひとつのことを長くやるって面白い。何年経っても、これで完璧、とは思えないから、そこが楽しいのかな。いまだに、お客様がとんと来ず電話もまったく鳴らなくて『電話壊れているんじゃないかな?』って不安になるときだってあるんですよ。『もしかして、玄関が閉まっているのかな?』って心配になって、ビルの下まで降りたりね(笑)」

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↑ 「私、アナログ人間なんです」という石川さんが開店から30年間、大切に綴っている「とりおきノート」。お取り置きしている商品やお客さまの情報、受け渡し日などを詳細にメモしている。

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↑ ものづくりにおいて、作り手の方とのキャッチボールが一番楽しいという石川さん。『キャッチボール』というタイトルの、オリジナル冊子を制作中。

 

第1回 大橋利枝子さんはこちらから

第2回 堀井和子さんはこちらから

第3回 山下りかさんはこちらから

第4回 湯沢薫さんはこちらから

第5回 大森伃佑子さんはこちらから

第6回 山村光春さんはこちらから

Farmer's Table

東京都渋谷区恵比寿南2-8-13 共立電機ビル4F
TEL:03-6452-2330
http://www.farmerstable.com

Profile

石川博子

Hiroko Ishikawa

広告系のスタイリストを経験した後、1985年3月に東京・表参道の同潤会アパートに生活雑貨の店「ファーマーズテーブル」をオープンさせる。新しい物、古い物、日本の物、海外の物、オリジナルの物と、石川さんのフィルターを通して集めた、暮らしまわりの生き生きとした品々を紹介している。2010年、恵比寿の古いビルの4Fに移転。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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