わが道のおへそ ― 家政婦・タサン志麻さん Vol.2

暮らしのおへそ
2021.02.11

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フランスで料理を学び
帰国後フレンチレストランに勤めたけれど
何かが違うとずっと思っていました。
何が違うのか、わからないから
ずっと苦しかったんです。


ところが……。大好きなフランス料理店で働き、仕事も楽しいはずなのに、何かが違う……。

「フレンチって名前がつくだけで、敷居が高いじゃないですか? 田舎から両親が食べに来てくれたんですけど、メニューを見ても何のことかわからないし……。私がフランス映画や小説のなかでいいなと思ったのは、おしゃべりを楽しみながら食べる家族の食卓でした。私は何がしたいんだろう? と思い詰めて、苦悩の末に店を辞める決断に至りました」

その後、アルバイトに行った店でロマンさんに出会い、結婚してすぐに長男を出産。子育てをしながらできる仕事を、と考えたときに思い浮かんだのが、フランス人のベビーシッターだったそう。そこで、家事代行=家政婦の仕事を見つけたというわけです。

「料理だけだとお客さんがつかないかもしれないから、何でもやりました。フランスまで行って料理の勉強をしたのに、トイレ掃除をしている自分に涙したことも」

それでも、だんだん料理を作る仕事が増え、そのなかにフランス料理を少し加えてみると、これが大好評!

「働くお母さんが、『ゆっくり家族で食べられました!』と喜んでくれるのがうれしくて……。ああ、やっと私は、思い描いていた理想の食卓のシーンをつくれるようになったと思いました。家政婦って下働きっていうイメージがあるけれど、私がやりたかったのはこれだって思ったんです」

今、志麻さんが毎日、自宅の台所でいちばんよく使う道具は菜箸です。

「返す、混ぜる、盛るとすべてをこなせる道具って、菜箸なんです」

ガスコンロは2口だし、鍋は4つだけ。ちっともプロっぽくありません。

時間がないなら、道具を減らして片づけの手間を減らせばいいし、簡単に作れるシンプルなおかずでいい。

イライラしたり悶々としたりするのは、「いちばん大事なこと」でなく、そのまわりにある「無駄なこと」に時間や心を奪われてしまうから。志麻さんのように、とことん自分に正直に、心の奥底にある「本当の自分」にピントを合わせて、「わが道」をスタスタと歩いてみたくなりました。

 

ラクする調理法を選ぶ

何を作るかより
作る時間、食べる時間を楽しむことが大事。
忙しいときほどフランス料理を。


油で煮る=コンフィという選択肢を知る
庭でローズマリーを収穫。


鶏手羽に塩、こしょうする。


フライパンに並べ、にんにくとローズマリーをのせて菜種油を注ぐ。


中火にかけ、沸騰したら小さな泡が出るほどの火で30〜40分煮る。


野菜はピュレにしておく
メークインをカットしてやわらかくゆでる。


ざっとつぶしてバターを加えて混ぜ溶かし、牛乳を少しずつ加え、弱火で温めながら混ぜる。


塩味をつけず、メインとの組み合わせ次第で味を調える。


photo:枦木 功 text:一田憲子

 


『暮らしのおへそ Vol.31』より
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Profile

タサン志麻

Shima Tassin

大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業。ミシュランの三ツ星レストランでの研修を経て帰国。老舗フレンチレストランなどに15年勤務。2015年にフリーランスの家政婦として独立。各家庭に合わせた料理が評判を呼び「伝説の家政婦」として注目される。フランスを通じて学んだ食卓の温かさを忙しい日本の家庭に届けたいと日々料理と向き合っている。https://shima.themedia.jp

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