笑顔のおへそ ― 刺繍作家・大塚あや子さん Vol.2
専業主婦として過ごし
刺しゅう教室を始めたのは55 歳。
どこでも、いつでも
毎日を楽しめる性格なんです。
刺しゅう作品を作るときもアイロンは必須。
55歳で始めたことは、ほかにもあります。それがタップダンスとジャズボーカル。今も月に2~3回レッスンに通っています。
「趣味だった刺しゅうを仕事にしたから、新しい趣味をつくろうと思って。どちらも、ずっとやってみたかったの。体力をつけるためとか、体幹を鍛えるためではなく、純粋にやりたかったから。だから楽しいの」と笑います。
それでも、やっぱりいちばん好きなのは刺しゅうの時間。仕事を終えて帰ってからも、夕飯後に針を持ちます。子育て時代、時間がなくて習い事の送り迎えの車中で。地方の教室に教えに行って泊まったホテルで。いつ、どんなときも小さな刺しゅうセットを持ち歩き、広げてきました。
そんな大塚さんの指先からは、若い頃に美術館で見た絵や、タップのリズムや、涙をぐっとこらえたあのときなど、すべての時間がこぼれ出しているよう。今年で71歳。
「やっとこの頃刺しゅうが上手になってきたかなと思えるようになりました。若い頃は、あれが足りない、これが足りないと焦ったり落ち込んだりするけれど、50歳を過ぎた頃から、蓄えた貯金が使えるようになってくるんですよね。私も、次にはどんな作品が生まれるかしら? と引き出しの中身を取り出して、使う楽しみを味わえるようになりましたから」
起こったことすべてをプラスに変え、未来の自分が使えるエネルギーとして蓄える……。大塚さんの太陽のような笑顔は、その変換器の役目を果たしているのかもしれません。
無心になる
何も考えずに手を動かす家仕事は
自分をゼロに戻すかけがえのない時間。
アイロンをかける
「ヴラスブラム」の同じ形のリネンシャツを一年じゅう着ている。リネンは霧吹きをして、「パナソニック」のスチーマーなしのアイロンで。
家具や銀器を磨く
(上)オイルワックスで家具の手入れを。「ツヤツヤになると大満足なの」。(下)家族の写真はすべて銀のフォトフレームに。定期的に銀磨きの「グラノール クリーナー」で磨く。
Tea for oneの時間を過ごす
(上)「マッピン&ウェッブ」のアンティークのポットで「H.R.ヒギンス」のペパーミントティーを。(下)ひとり分用の小さなポットを集めている。自分のためのティータイムはこれで。
「好き」を続ける
何かの役に立てるためでなく
ワクワクするから続ける。
楽しいことが、明日の力になる。
タップダンスとジャズボーカルを習う
(上)タップダンスのレッスンはたっぷり1時間半。タップダンサーの金子真弓さんと足でリズムを刻んだり、手を打ったり飛び跳ねたり。(下)ジャズボーカルは、「ヴォーカルスクール・ダダ」の斉田佳子さんに。ピアノに合わせて、この日はミュージカル「グレート・デイ」の中の一曲「モア・ザン・ユーノウ」を。
photo:大森忠明 text:一田憲子
『暮らしのおへそ Vol.31』より
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Profile
大塚あや子
1950年福岡県生まれ。日本刺しゅう、欧風刺しゅうの刺しゅう家である母のもとで刺しゅうに親しむ。客室乗務員を経て結婚。2005年に直接指導による刺しゅう教室「エンブロイダリー・スタジオ・エクル」を開講。個展で作品を発表しながら、テレビ、雑誌、書籍出版など幅広く活躍している。
http://www.studio-ecru.com
『大塚あや子のステッチワーク 24の刺繡物語』(文化出版局)
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。