そうだみわこの「~岡山~日常三十景」日替わりエッセイまとめ【前編】
9月に毎日配信していた特別連載「そうだみわこの~岡山~日常三十景」、楽しんでいただけましたでしょうか? 10月になり連載が非公開になってしまいましたので、見逃してた! という方や、もう一度読みたいという方のために、おまとめ版を公開いたします。今日お届けするのは前編。後編は明日お届け予定ですのでお楽しみに。
#01 おひとつ、いかが?
旅に出るとき、必ずバッグに忍ばせておくものがあります。それがこちら、廣榮堂(こうえいどう)の“きびだんご”。絵本作家の五味太郎さんが描く、桃太郎やその仲間たちのイラストがなんとも愛らしい。国産のもち米に砂糖と水飴、きびを加えて作られていて、ほんのり甘く、素朴でやさしいお味。ころんと小さなサイズについつい手が伸びます。旅先でお世話になった方に「こちらでどうぞ、仲間になってくださいね」と、ひとこと添えて手渡し。みなさんにっこり笑顔になるので、すっかりお気に入りの岡山土産となっています。
#02 記憶の中の瀬戸内海
山々と川に囲まれた町に生まれたからか、ずっと海に憧れがあります。子どもの頃、家族で山陰の海に出掛けるのがお決まりでした。透明度の高い海と、夏の青い空。そのコントラストを今でも思い出します。社会人になり、車で岡山県内の海へ出掛けるように。とくに牛窓や児島の海には、何度も足を運んでいます。海岸に座って夕日が沈むのを眺めたり、おしゃべりしながら散歩したり。最後に見た瀬戸内海は少しぼんやりした空模様で、どこか静止画のよう。静かな海もまた、いいな。記憶の中の瀬戸内海は、いつも優しく凪いでいます。
#03 思い出の福寿司
大学時代のお話。理由はもう忘れてしまったけれど、ひどく落ち込むことがあり、教授に話を聞いてもらうことに。ぽつぽつ話をしたあと、お昼ごはんに誘っていただきました。行き先は、岡山駅近くにある福寿司。大将が魚をさばく様子を眺めながら、お刺身定食を注文。美味しさに身体が満たされ、固くなっていた心までほぐれた気がしました。大人になった今も時折立ち寄っています。この日いただいたのは、看板メニューの“名物わらどん”。岡山県民にとって身近な鰆(さわら)をたっぷりのせた丼ものです。特製ダレに漬けた鰆は程よく脂がのっていて、ぷりっとした食感。教授の言葉、今でも大切にしています。「悩んだり迷ったりしたときは、美味しいものを食べるといい」
#04 木・金・土の待ち合わせ
「木・金・土曜日にOPENしているから“木琴堂”なんです」と、店主のちえさん。木琴堂は、岡山県倉敷市児島にある小さなショップです。取り扱うのは、手作りリースなどの植物や、贈り物にぴったりのセレクト雑貨、食品など。店内にはどこかのんびりした空気が流れていて、とっても和みます。この日は静岡のお茶と岡山のお味噌を購入。あちこちから大切に選ばれたものが集まるこの場所にいると、自分の存在まで尊く思えてくるから不思議だな。楽しそうに商品を紹介してくれるちえさんと愉快に雑談をしながら、今日もまた長居をしてしまうのでした。
#05 ぶどうを巡る探求
「研究所」と名前のつく、ぶどう農園があります。去年の夏、友人からの誘いでぶどうの収穫を手伝うことになりました。向かった先は、岡山市北区津高にある「林ぶどう研究所」。マスカット オブ アレキサンドリア発祥の地で、100種類以上のぶどうを栽培しています。贈り物用の梱包作業をするわたしの横で、代表の慎悟さんがぶどうの数値を測定したり、記録を付けたり。何やら忙しそう。「これから美味しいワインを作りたいし、とびきり大きなぶどうも作ってみたい。色々実験を重ねているんです」と、うれしそうに教えてくれました。お礼にと分けてくださったぶどうは、すっきりとした甘さで瑞々しく、きらきら光って見えました。
#06 赤い町並み
生まれ育った岡山県高梁(たかはし)市には、大学卒業まで暮らしていました。10代・20代の頃、時には“何もなくて退屈だ”とさえ思ったこともある町。歳を重ねるにつれ、故郷の魅力を再発見することが増えています。例えば、高梁市成羽町の標高約500メートルに位置する山村、吹屋もそのひとつ。吹屋はかつて銅山の開発が盛んで、ベンガラという紅色の顔料を生産して繁栄した町です。今でも外壁や屋根瓦がベンガラ色をした建物が残っていて、緑豊かな景色とのコントラストがきれい。町を歩けばタイムスリップしたような気分になります。
#07 台所のダルマさん
原材料は、柚皮・唐辛子・食塩のみ。保存料・化学調味料などの添加物は何ひとつ使用していない。「シンプルなのに、なんでこんなに美味しいの!」と、食べるたびに思う調味料があります。めずらしい真っ赤な柚子胡椒、佐藤紅商店の「紅だるま」。ベンガラの町として有名な岡山県高梁市吹屋で生まれた商品で、愛らしい表情をしたダルマがトレードマークです。柚子の爽やかな香りと、ピリリとした唐辛子の辛味がポイント。まだ暑さの残る日には、素麺やもずく酢と一緒に。唐揚げなどの揚げ物にアクセントとして使うのもおすすめ。「次は何に合わせようかな」と、料理をする時間が楽しみになる一品です。
#08 水辺をゆく
「いないと思ったら、また散歩に行ってたんだ」と、よく職場仲間に言われていました。気分転換したいとき、ひとまず歩いてみることにしています。岡山市内で働いていた時は、旭川沿いがお気に入りの散歩コースでした。日本三代庭園として知られる後楽園と岡山城の間を流れる旭川。大きな一級河川でありながら、この辺りの水流は穏やかです。水辺に集う鳥たちや、風にそよぐ木々。気持ちよさそうにゆったり進むスワンボートを眺めながら、ただ歩く。それだけのことなのに、ずいぶんご機嫌になれるのでした。
#09 遊びながら知る岡山弁
油断するとついつい出てしまう、クセの強めな岡山弁。大阪や東京で暮らしていたときもバリバリ岡山弁を使っていたので、「昔話のような話し方だね」と言われてきました。わかりやすいものといえば、特徴的な語尾。「〜だよね」の代わりに「~じゃが」、「~じゃなぁ」。他に、「~がぁ」というものも。そんな岡山弁をもっと知りたい方におすすめしたいのが、吉備人出版の「岡山弁トランプ」。写真に並ぶ言葉たち、ご存じですか。アクセントやイントネーションのわかる楽譜付きなので、きっと真似してみたくなりますよ。
#10 おいしい道草
散歩に出かけては、道端の草花を観察しています。道草することで、可憐に咲く植物に気づく喜びがあるように、人生で寄り道する時間も大切にしたい。そんな想いからフリーランスとしての屋号を「道草」にしました。少し前、岡山に“道草”仲間がいると聞き、訪ねてみることに。「みちくさスコーン」はイングリッシュスコーンの専門店です。国産の小麦ときび砂糖で作るスコーンが大人気。気分に合わせてクロテッドクリームやジャムと一緒に口に運ぶと、優しい甘みが広がります。あぁ、幸せ。チャーミングな店長の郁恵さんとお話する時間もまた、お楽しみのひとつ。みなさんもおいしい道草してみませんか。
#11 毎日に乾杯
民藝に夢中です。暮らしに馴染むものでありながら、どこかさりげなく美しい。職人さんや作家さんが手仕事で生み出す生活用具は、見ているだけでうっとりします。最近、我が家に新しく仲間入りしたのが三宅義一さんのワイングラス。たまたま訪ねたお店で展示会をしており、一目惚れしました。ボウル表面のぽこぽこっとした加工は、“アラレ”と呼ばれるもの。存在感はあるけれど、とても優しい触り心地です。持ち手のデザインも魅力的。まるっとした部分には小さな小さな気泡があって、光が差すと星空みたい。特別な日に限らず、何気ない普段の食卓でも愛用しています。
#12 今日のおにぎり
「一番好きなおにぎりの具ってなに?」と聞かれて、すぐ答えられる人はどれくらいいるんだろう。わたしは食いしんぼうなので、あれこれ思い浮かび、なかなかひとつに絞れません。おにぎりと言えば、岡山に愛用しているお店があります。昭和27年から続くお米屋さんが運営する“おにぎり専門店”「山田村」。機械も型も使わず握っているので、お米のもっちりした食感を味わえます。よくリピートしているのは、梅しそ鮭。なんて夢いっぱいのコラボレーション。豊富な種類の中から、その日の気分で今日のおにぎりを選ぶ時間も贅沢です。
#13 巡り合わせの本屋さん
岡山県玉野市の児島湖沿いを走っていると、近未来を思わせる不思議な建物が目に入ります。正面には「451BOOKS」の文字。実はこちら、書店なのです。外観だけでなく、内観もユニーク。入り口の扉を開けると、すぐそこに螺旋階段。ぐるぐるっと階段をのぼる、その途中のあちこちにも本がレイアウトされていて、とっても楽しい。2階は、所狭しと本が並ぶ空間。古書、新書、リトルプレスなど、様々な本が並んでいます。本棚はジャンル分けされていないので、ふと手に取った本がお気に入りの一冊に変わることも。451BOOKSで偶然出会った詩集や絵本は、今日もおうちの本棚に大切に並んでいます。
#14 スパイスが恋しくなったなら
どうしてもスパイスの効いた料理が食べたくなるときがあります。ガツンと元気をもらいたいときや、気分転換をしたいときなんか特に。そんなときに訪ねたいのが岡山県総社市にある「tirupatis(ティルパティ)」です。かつて診療所だったというレトロな雰囲気の店内に入ると、スパイスの香りがふわっと広がります。待っていました、この感じ。この日は、限定販売の“ビリヤニ”をオーダー。お米とチキン、スパイスを合わせて炊き上げたもの。口の中で味がどんどん変化し、パラパラした食感が楽しいご馳走です。季節のカレーと一緒に、あっという間に完食。大満足でごちそうさまでした。
#15 心、浮き立つ児島への旅
「瀬戸内海を眺めながら、ゆっくり過ごせる場所があるよ」と、友人からのお誘い。わくわくしながら向かったのは、デニムの産地として有名な岡山県倉敷市児島にある「DENIM HOSTEL float」でした。迎えてくれたのは、オーバーオールのよく似合う代表の島田くん。みんなで楽しく会話をしながら、カフェスペースで手作りレモネードをいただきました。窓の外に視線を向けると、一面に広がる穏やかな海。くじらのような形をした無人島、通称“くじら島”も近くに見える。あまりに良い時間だったので、その後も何度か再訪しました。最近、ラザニアとナチュラルワインを楽しめるレストランや、海を一望できるサウナの運営も始めたそう。そろそろfloatが恋しい。この秋、児島への旅を計画しようと思います。
【~岡山~ 日常三十景】
山々と川に囲まれた自然豊かな城下町・岡山県高梁市に生まれ育ち、 大学卒業後は関西・関東で都会暮らしも経験。20年以上を過ごした岡山での暮らしの中で出会ったふわりと光る瞬間や、お気に入りの物や場所を集めてみました。愛おしい岡山での日々を、親しい友人にお話しするような気持ちでお届けします。
Profile
惣田美和子
大学で英文学・言語学を学ぶ。英語教師として働いた後、グラフィックデザイナーとなり大阪や東京のデザイン事務所へ。時には、イベント企画や通訳なども。2022年1月、岡山で「道草」としての活動を始める。 この夏、生活の拠点を長崎県の小さな町に移し、新たな暮らしを始めたところ。日常を楽しみながら、デザインや言葉のまわりで道草中。好きなものは、旅・自然・読書・書道・民藝・古道具・純喫茶・食にまつわること。
Instagram:
日常のこと @miwakosoda
道草の活動のこと @michikusa_design
HP:https://michikusadesign.com
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。