12月の「今日のひとしな」は静岡「tömpa（東巴 / とんぱ）」が担当します

はじめまして。12月の今日のひとしなを担当させていただきます「東巴」の素保晴美です。私がお店を始めたきっかけ、そして今の空間をかたちづくるもの、そのすべての原点には“旅”があります。見たことのない風景や、人々の暮らしに触れるたびに、心の中に小さな種のようなものが残り、そのひとつひとつが時間をかけて芽吹き、いまの「tömpa（東巴 / とんぱ）」というお店になりました。これから少しずつ、旅の記憶とともに、さまざまなお話を交えながらご紹介させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

もともと旅が大好きで、若い頃はリュックひとつでさまざまな国を巡りました。その中でも、私の人生の方向を大きく変えたのが、中国・雲南省をひと月かけて旅した時のことです。
当時、まだ今のように観光地として知られていなかった大理の町では、透き通るような空気の中、洱海と蒼山に抱かれた静かな時間が流れていました。そこで出会ったのは、少数民族・ナシ族や白族（ペー族）の人々。彼らとともに暮らす中で、日常着として身にまとう民族衣装や、ひと針ひと針に意味が込められた刺繍、そして手仕事による染めの美しさに深く心を打たれました。
さらに訪れた麗江の町では、歪んだ石畳の上を歩きながら、1996年の地震の爪痕が残るにもかかわらず、活気に満ちた人々の姿に出会いました。後に世界遺産にも登録されたその町には、強く、しなやかに生きる力が溢れていました。
そして、見たこともない象形文字「東巴文字」の看板を目にした瞬間、胸の奥が熱くなり、思わず涙があふれました。これが、後に私の店の名前「東巴（トンパ）」となるきっかけです。

雲南省の旅を終えた後、桂林では川下りを体験しました。山々が水面に映る幻想的な景色を前に、自然の美しさと人々の営みが調和する風景に心を奪われ、旅の記憶が五感に深く刻まれました。
滞在中オーストラリアでの暮らしを経験した日本人女性から話を聞き、心が大きく動きました。1年かけて資金を貯め、ワーキングホリデーでオーストラリアへ渡りました。１年の滞在が終わり帰国の際に、現地友人の母からの手紙にはこう書かれていました。“Burringbar”とはアボリジニの言葉で「ブーメラン」。
「ブーメランは投げても戻ってくるでしょ？晴美ともまた会えるように」と。
その言葉に心を打たれ、帰国後にオープンしたお店に“BurringBAR”と名づけました。無国籍料理とお酒を楽しむバーには、いつも多様な人が集まり、笑いが絶えませんでした。人とのつながりが人生を豊かにする。そんな思いを胸に、同時期に「東巴」も誕生しました。

最初はフェアトレード活動として、民族村で作られた手仕事の品々を販売するところからスタート。やがて再びフランスを訪れ、蚤の市を巡る中で、古いものが持つ静かな存在感と、人の暮らしに溶け込む美しさを改めて感じるようになりました。
偶然にも、「東巴」という名がパリ（巴里）の東にある国＝日本という意味にも重なることに気づき、東南アジアの民族文化と、フランスの古いものの美しさ、その両方を愛する自分にぴったりの名前だと感じました。

そして現在、2024年に新たに建て直した店舗では、1階に常設展示、石鹸ラボ、お料理教室やカフェを、2階にはギャラリースペースを設け、アート系のワークショップや展示会を開催しています。毎月一度は、作家の個展や私自身がセレクトしたアイテムの展示を行うほか、季節の移ろいを感じながら語らうお茶会なども開いています。訪れる人と“モノ”そしてそれをつくる“ヒト”との出会いが生まれるあたたかな空間づくりを目指しています。

オリジナルブランド「楚々衣（sosoi）」は、ベトナムの家族経営工房で作られ、お客様一人ひとりの体に合わせたサイズ直しができるセミオーダーメイドの服づくりが人気です。古いものも、新しいものも、その背景には必ず“人”と“時間”が流れています。東巴は、そんな手のぬくもりや暮らしの中の美しさをそっと受け取り、また誰かへと渡していく場所でありたいと思っています。

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