人の力でできた空間のお話

〜「tömpa（東巴 / とんぱ）」より　vol.23〜

今日のひとしなのテーマは、リノベーションやリフォーム、そしてライフスタイルの根っこにある「建築のお話」にしようと思います。
私はこれまで、自宅や店舗、そして13年間暮らしたトレーラーハウスを含め、合計7件の住まいと店舗を自分のためにリノベーションしてきました。振り返れば、なぜあんなにも身体を酷使し、無茶をしてまで自分で作り続けていたのだろう、と今さらながら思います。体のあちこちにガタがきはじめ、ようやくあれは若さと勢いだけで乗り切っていたんだな、と気づきました。
そして迎えた8件目である今回の新店舗。今度ばかりは、さすがにプロの業者さんに任せよう！と思っていたのですが、現実はまったく違い、ことごとくやらないと気が済まない性分なんだなと、痛感しています。

今回の現場は、良くも悪くも色んな意味で大盛り上がりの現場（笑）。
長年この土地で店を続けてきたこともあり、友人ネットワークだけでほとんどのことが賄えてしまう環境でした。そのため、現場管理が難しくなるとして嫌がられる施主支給のものも多く、そして何より、今では何でも言い合えるドイツ仕込みの設計士さんと工務店さんとの調整が予想以上に難航。次々とトラブルが発生し、工程は進みそうで進まない。一歩進んで二歩下がるような日々に、周囲からは「これ、本当に完成するの？」「新居町のサグラダ・ファミリアになるんじゃない？」と半ば笑われながら心配されていました。

現場には監督はおらず、気づけば私が毎日朝から晩まで現場に張りつき、材料の手配をしたり、遠方にいる設計士さんに指示を仰いだり、あーだこーだと奔走する日々。「結局また私が現場に入ってる……」と思いながらも、つくづく嫌いじゃないんだなぁと実感しました。

でも、それは大変さ以上に“人”に恵まれた現場だったから。
本来いちばん先に施工しなければならないはずの窓が、最後の最後まで決まらず難航。海辺で潮風が強い地域のため、鉄は錆び、木は腐る。どうしたものかと悩み続け、最終的に、家業で精密機器を作っている兄にアルマイト加工で特別に作ってもらいました。寝る間もないほど忙しい兄が、「作れる人がいない」と相談した妹のために、半ば意地をみせながら？手がけてくれ、取り付けまで来てくれた特別な窓たち。

エントランスの両開きドアはアンティークの良いものが見つからず困っていたところ、地元の同級生で宮大工をしている友人に相談し、いや、頼み込んで(笑)ヒノキで素晴らしいドアを作ってもらいました。全てのリノベを手伝ってくれている大工の友人。海外や船の上で暮らしていた経験もある頼もしい大工の友人。
フランスにありそう銅管で水場を作ってくれた友人。面倒な古い器具を使う電気工事をサポートしてくれたのも友人。エアコンなどの設備をお願いしたのも友人。左官も、友人の紹介で仲良くなった職人さん。この現場にいない時でも、困ればすぐアドバイスをくれる建築関係の友人たちのお陰で無事完成することができました。

さらに今回の店舗にはもう一つ、大切にした“物の記憶”があります。
廃業された織物工場から譲り受けた、立派な柱や梁、古い木材。それらは、新材を使うほうがはるかに効率的で、古材は寸法を合わせたり、癖を読んだり、手間のかかる工程がいくつもありました。それでも、この木に刻まれた時間の深みは、他の何かでは代えられません。新しい場所で息を吹き返す姿には、やはり喜びを感じます。

職人さんには、本当に手間のかかることばかりお願いしました。思わぬ問題やトラブルも多く、大変な現場だったと思います。
それでも、“人の手”と“物の記憶”が折り重なってできた空間が形になったのは、関わってくださった皆さんのおかげです。

人と時間、そして良くも悪くもさまざまな物語が集まり、積み重なって、今ここにひとつの「ひとしな」が生まれました。正確にはまだ途中ですが、それでも、この空間がすでに私の中で特別なものになっていることは間違いありません。

本当に倒れてしまうのではないかと思うほど、苦労は山ほどありましたが、それ以上に忘れられない日々でした。終わってしまった今、どこか喪失感さえあります。
こんな現場は、やろうと思ってもなかなか出会えるものではないと思います。語りきれないほどのドラマがあり、今日のひとしなではとても書ききれませんが、是非また店舗に遊びに来て、その続きを聞いていただけたら嬉しいです。そして、この場所がこれからも新しい物語を生み、誰かの日常にそっと寄り添う、静かなひとしなでありますように。

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