「cimai」のパン(前編)  ~ふたりだからこそやって来られた姉妹二人三脚のパンづくり~

”つくる人”を訪ねて
2016.02.16

 

雑貨からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載。今月は、かわいい姉妹が焼くおいしいパンを訪ねました。

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ふたりだからこそやって来られた姉妹二人三脚のパンづくり

 Cimai 大久保真紀子さん 三浦有紀子さん

 

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photo:有賀 傑 text:田中のり子

埼玉県・幸手市にある「cimai(シマイ)」は、大久保真紀子さん・三浦有紀子さん姉妹が切り盛りする人気ベーカリー。

 

姉の真紀子さんは天然酵母使ったパン、妹の有紀子さんはイーストを使ったパンを、それぞれ焼いています。お互いが助け合いながら、活動を初めて11年、お店をオープンしてまもなく8年という月日が流れました。それぞれにパンを作るようになったきっかけや、影響を受けたもの、これからの目標などについて、お話を伺いました。

 

 

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茨城県古河市の田舎町で育ったというふたり。「最寄駅まではバスで片道数十分、高校に行くのも自転車で1時間半(笑)。まわりは畑だらけで、まわりにもパン屋さんはほとんどありませんでした」と有紀子さん。そんな中でもパンは大好きで、高校生の頃、近所の公園で同級生と「ヤマザキ」や「パスコ」の袋入りのパンを食べる、“パンパーティ”をしていたという思い出も。

 

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高校卒業後、真紀子さんは会社勤めのあと友人から誘われ、地元のケーキ店でアルバイトをすることになりました。

「個人経営の小さなお店だったので、ケーキの仕込みや仕上げはもちろん接客まで、いろいろやらせていただきました。やり始めてみると、ものを作ることは、こんなに楽しいんだと気づかされました。店主の方にはすごく期待されて『2号店を出すので、任せたい』とも言っていただいたんです」

けれどもそのとき、真紀子さんの胸に浮かんだのは「もっと、外の世界を見てみたい」という思いでした。何の勉強もしないまま、いきなりものづくりの世界に入ってしまったため、お客さまから質問を受けても何もきちんと答えられないなど、自分の中に土台となる知識が何もないことに、焦りを感じていたのでした。

そうして次に門をたたいたのが、新規オープンを控えていた埼玉県・春日部市の「アフタヌーンティールーム」。ベーカリー部門に配属され、21歳頃に初めてパン作りを経験します。「シェフ的な人がいなかったので、アルバイトの私が粉から焼き上げまでを任されました。パン作りが楽しくて楽しくて、次第に『もっと上手に作りたい』『もっとパン作りを深めたい』という欲が出てきたんです」。

その時期たまたま手にした雑誌の「パン特集」のページをめくっていると、東京・代々木上原の名店「ルヴァン」の甲田幹夫さんの写真が目に飛び込んできました。「その笑顔に惹かれて『この人のもとで働きたい』と直感的に思ってしまい、後先考えずに転職に向けてのアクションを起こしてしまいました」

前のめりで行動したものの、その時期「ルヴァン」では「従業員募集はなし」。店主である甲田さんが「面接」ではなく「面会」をして、働きたい人の人となりを見るのがならわし。「ときどき手伝いをしていただくのはどうですか?」と言われ、真紀子さんは別のパン屋で働きながら、仕事が終わったあとの夜間や職場の定休日に、手伝いをすることになりました。そのがんばりあってか、半年後、晴れて「ルヴァン」のスタッフとして迎え入れられたのです。

「普段の私は、もやもや考えてなかなか動けないタイプなんですけれど、その頃は自分でも驚くほどまず行動していましたね。悩んで考え込んでいると、時はどんどん流れていってしまう。考える前に一歩踏み出すことがよかったんだと、今になって思います」

 

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一方有紀子さんは、高校時代に雑誌『オリーブ』の洗礼を受け、そこで知った美術学校「セツ・モードセミナー」に進学します。「都会の情報源といったら『オリーブ』しかないような青春時代だったから、自分が何に向いているかとかも考えずに受験してしまったんです。入学早々『自分は絵で生きていく人ではないな』と気づいたんですけれど、ものを作ること自体はやっぱり好きで」

食べ物にも興味があったことから、有紀子さんは埼玉・大宮の「アフタヌーンティールーム」でアルバイトを始めます。「さまざまな仕事を受け持つうちに、自分は『食べ物と、そのまわりにあるすべてのものを作りたいのだ』と考えるようになりました。食べ物を出すなら、パッケージはこんなデザイン、お店の空間はこんな雰囲気、サーブするときはこんなスタイルで……そういうことを空想するのがすごく楽しかったんです」

ただし、今の自分には何かを具体的に生み出すには経験が足りない。手に職をつけなければと、卒業後は長野のオーベルジュや東京・代官山のベーカリーなどで経験を積み、「アフタヌーンティー」時代に知り合った友人と一緒に、フードイベントを開催したりしていました。しかし26歳で結婚と出産。「まだ自分が何も納得していないのに、仕事を中断してしまったものの、子どもを産んだあとも、毎晩のようにベーカリーのシェフや、パン生地をふれている夢を見ました。『どうしてもパンを作りたい』と、8か月で子どもを保育園に預けて、仕事に復帰していました(笑)」。

 

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それぞれに歩んだ場所は違えど、奇しくも「パン」という同じ道を選んだふたり。東京で働いているときは、同居しながらそれぞれの職場に出勤していました。そんなふたりが大いに影響を受けたのが、栃木県那須塩原市にある「1988 CAFÉ SHOZO」。カフェ界のパイオニアと言われ、ヴィンテージの椅子やテーブル、昭和を感じさせる建具を利用したインテリアやオリジナルのコーヒーなどが有名で、多くの人にさまざまな影響を与えた伝説的なお店です。休日のたびに片道2時間半かけて足を運び、お茶を飲んで買い物をして、「こういう空間いいね」「いつか自分たちでも何かしたいね」という思いを温めてきたと言います。

 

「cimai」という屋号をかかげて初めてイベントをしたのは、東京・恵比寿の生活道具店「イコッカ」で、2005年3月のこと。「今までは働いている店のためのパン作りをしてきましたが、ここで初めて『自分たちのパン』を販売したんです。『え、本当に私たちでいいんですか?』という気持ちだったんですけれど、予想以上にお客さまに喜んでもらえて。すごく新鮮で、驚きがあって、その分「ちゃんとやらなくちゃ」と思う気持ちと、「あれもやりたい」「これもやりたい」という思いが、どんどん膨らんでいったんです。

 

そのイベントをきっかけに「cimaiのパン」の認知度は高まり、さまざまなイベントに呼ばれるようになり、卸し先も決まっていきました。ただ、お互いに本職の仕事と二束のわらじで、体も心もすでに限界。「いい加減、自分たちのお店をやらなくちゃ」そう決心して、お店づくりをスタートさせたそう。さまざまな縁に恵まれ、「cimai」がオープンしたのは、2008年7月のことでした。

 

【連載】“つくる人”を訪ねて~「cimai」のパン 後編へつづく

 

 

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cimai
埼玉県幸手市幸手幸手2058-1-2

☎0480-44-2576

営12:00~18:00くらい(不定休なので、営業日を下記のHPで確認のこと)

http://www.cimai.info

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