鵜飼芳夫さん 鵜飼弘子さん(セレクトショップオーナー) vol.2
これじゃなきゃ、という意思は強くても
ひとりで生きていく自信はないんです。
やがて徐々にお客様が増え、いつの間にか弘子さんのお店は、街の注目スポットになりました。
弘子---当時どこの家庭にもランチョンマットなんてなかったんです。だから「どう使うの?」って聞かれたら、テーブルの上でもいいし、ドレッサーの上に敷いてもいいしって説明するわけ。そうするとみんな「へ〜」って喜んでくれるの。それは今、洋服のコーディネートを提案するのと同じですね。
雑貨店は順調に売り上げを伸ばし、やがて電気店を従業員に譲って、ふたりで雑貨店を営むことになりました。その頃から、雑貨より洋服の需要が増えて、「私の部屋」から独立し「ライフギャラリー サス+コントラスト」として再スタートすることに。気になったブランドや作家さんには、連絡をしてふたりで足を運び、いろんな人と出会いながらアイテムを少しずつ増やしてきました。その頃から今まで、サスコンらしさは、ずっと変わらず弘子さんらしさでもありました。アンテナを張って「あ、これいいな」と拾い上げるのが弘子さんの役目です。
芳夫---このデザインがいいね、とピックアップする目は、弘子じゃなくちゃダメだって思っていますね。
弘子---確かに選ぶのは私だし、コレじゃなきゃっていう思いも強いんです。でも、ずっと私は自分に自信がなかったんですよね。寂しがり屋だし、ひとりでは生きていけないって思っていました。あれこれ文句はいっても、やっぱり主人にいてもらわなくちゃダメなのかもね。
妻にも子どもにも怒ったことはありません。
スポンジみたいに、すべての思いを吸収しちゃうんです。
今でも月に数回は上京し、展示会巡りを。新たなブランドを見つけたり、展示会を企画するなど大忙しです。そんなふたりは「老後をどうするか」なんて、話し合ったこともないのだとか。
弘子---私は、そういうことも考えなくちゃと思っているんだけど、主人はまったく聞く耳持たないのよ。そういう風になりたくないのかな?(笑)
芳夫---僕はいつも、こんなことがやりたい、こういう世界観がつくりたいって、夢を描くのが好きなんです。その夢は枯れることがない。今でもまだまだやりたいことがいっぱいありますから(笑)。
結婚、仕事、子育て、家族間の人間関係……。人生にはいろんな出来事があり、山あり谷あり、長い道が続きます。でも、ふたりにとって、どんな時にも変わらなかったのが、好きな洋服を見つけて、自分らしく組み合わせ、装うことのワクワク感でした。その発見の喜びは、歳を重ねても尽きることはありません。心のいちばん深いところに、同じ“ときめき”を持っていれば、他に違うところがたくさんあったとしても、1本の路を共に歩いていける……。ふたりの仲のいい姿がそう語っているようでした。
『ふたりのおしゃれ』より
photo:和田直美 text:一田憲子
Profile
鵜飼芳夫 鵜飼弘子
芳夫さんは1941年生まれ。家業の電気店を継いだ後、弘子さんと共に「サスコン」を営む。弘子さんは1942年生まれ。ニットメーカー勤務後結婚。芳夫さんの家業を手伝いながら雑貨店をオープン。1979年より、洋服をメインとした「サスコン」にリニューアル。
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