濃密に、カフェマスターとして生きていく vol. 1 「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」 店主・堀内隆志さん
朝11時少し前、鎌倉の「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」の前に、台車に山盛りの荷物をのせて運ぶ堀内さんの姿がありました。袋の中身は、昨夜焙煎したてのコーヒー豆。深夜自宅で焙煎した豆を、毎朝店まで運ぶ。これが、5年前からの日課だそうです。
「ずっと、北海道の『斎藤コーヒー』さんから豆を仕入れていたのですが、斎藤さんが体調を壊されて。それ以前から、いつかは自分で焙煎をと思っていたんです。新居に焙煎機が置けるスペースもでき、すべてのことが重なって、自分で焙煎を始めました」。
近所迷惑にならないように、自宅で焙煎を始めるのは、なんと夜10時半から。1回に焼ける豆は5キロ。それを明け方までかけて12〜13回繰り返すというから驚きです。
「もう、体はボロボロですよ」
と笑いますが、自分で豆を焼くからこそ、見えてきたものがあるのだとか。
「面白いんですよね、味を作るってことが。1分間の温度上昇率で味が変わってくる……。コーヒーいれる“以前”を知ったことで、コーヒーのおいしさがより深くなった気がします」
でも、焙煎をはじめた当初は、何度やってもうまくいかず、焦がしたり、生焼けになったり……。
「毎日悩みましたね〜。余計なことを始めちゃったんじゃないかと思って」。少しずつ納得のいく豆が焼けるようになった頃、あの東日本大震災が起こりました。震災翌日から奥様の千佳さんとふたりでお店をあけたそうです。
「お客様がコーヒーを飲んでいらっしゃる姿を見て、ああ僕は誰かに喜んでもらうために、この店をやっているんだなと改めて実感したんです」
『暮らしのおへそ』vol.20 text:一田憲子 photo:興村憲彦
Profile
堀内隆志
神奈川県・鎌倉の「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のマスター。カフェ業のかたわら、ブラジル音楽のCDのプロデユースや選曲、ラジオ番組のパーソナリティ、執筆などジャンルを超えて活躍。奥様の千佳さんとの共通の趣味はプロレス。著書に『コーヒーを楽しむ。』(主婦と生活社)
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。