身体にふれることで、ありのままの姿を観察し認識するセラピー ~今回の先生:「てあてやcokiu」香川夏未さん~ vol.1
1年のうち、いちばん体調の悪い春の毒出しシーズン到来で、いつにもましてヨロヨロフラフラのからだオタク、ライター田中のり子。今月も「からだ修行」という名のもと、身体を張った体験リポートをお伝えいたします!
photo:砂原 文 text:田中のり子
第2回目で訪れたのは、クラニオセイクラルのサロン「てあてやcokiu」。サロンを主宰する香川夏未(なつみ)さんは、何と現役の看護師さんでもあります。彼女との出会いは、東京・蔵前にあった生活道具店「in-kyo」にて、出張「体験セラピー」を受けたことがきっかけでした。
「生活道具店のお店の中で、体験セラピー……??」と、ハテナマークが点滅したのでしたが、春の陽だまりのようにほほえむ香川さんは、つやつやと輝いていて(自分がカサカサなので、その輝きが、ま、まぶしい)、まわりにきれいな空気が流れているのがひと目で分かる、清々しい佇まいです。
しかし私のつたない予備知識では確か、「クラニオセイクラルって、やわらか~く、さわるだけの施術じゃなかったっけ?」
生まれてこのかた、肩と首は凝っている状態がデフォルトで、美容院でシャンプーのお兄さんがマッサージタイムに入ると、「もっと強く、もっと強く!」とねだるのが常の私からすると、つい「ふれるだけというのは、はたして効き目があるのだろうか……?」という疑問が湧き上がってしまいます。けれどそのときの香川さんの手技は「ふれているのを忘れるほど」軽やかでしたが、店内の窓辺に置かれた椅子に座って15分、ほんの短い時間なのに、冬から春にかけて、ざわざわしていた私の心と身体を、不思議とすっーーと落ち着けてくれたのです。そして「これがクラニオセイクラル……??」「もっと本格的に、この施術を受けてみたい!」と、興味をかきたてられたのでした。
「クラニオセイクラルセラピー」は、日本語に訳すと「頭蓋仙骨(とうがいせんこつ)療法」。1970年代にアメリカのオステオパシー(骨、筋肉、血管、リンパなど身体を構成する要素に働きかけ、自然治癒力を高めていくことを目的にした療法)のお医者さまによって開発された療法です。
私たちの脳や脊髄(せきずい)は、三層の膜でおおわれており、その膜と脳脊髄の間には、血液から作られている「脳脊髄液」という体液が循環しています。イメージとしては、ボウルに入ったお豆腐のように、ゆらゆら揺れる液体の中に、脳と脊髄があるわけです。そして繊細でやわらかなタッチで身体にふれることによって、その「脳脊髄液」の循環に働きかけ、過剰な緊張を取り除き、身体本来が持つ自然治癒力を引き出していく……という療法です。
手を当てるだけで力をかけず、身体に一切負担がないので、マッサージが苦手な人にもおすすめなのだとか。実際に「in-kyo」で一緒に施術を受けた友人のMさんは、「人に身体をもまれるのが苦手」と公言している方ですが、「香川さんのは気持ちいい私でも大丈夫」と、とても喜んでおりました。
香川さんは、看護師のお仕事のかたわら、4年前から出張セラピーを行っていましたが、昨年の春から自宅で施術を行うことにしました。現代医療の現場で働いていると、調子が悪くなると病院へきて、薬をもらって帰るけど、またしばらく経つと同じように戻ってきてしまう人が、とても多いことに驚いたそうです。
不調が起こる→病院に行き、薬で治す→また同じ不調が起こる→再び病院に行って、薬で治す……。そのサイクルをぐるぐるまわってしまっているのです。
「もちろん場合によっては、薬で症状をやわらげることはとても大切なことですから、それを否定する気持ちはまったくありません。けれどもいろんな場面で、『自分の身体への信頼感が、少ないのでは……?』ということをとても多く感じました。身体には本来、自然治癒力というものがありますよね。自分自身で『よくなろうとする』力を、もっともっと信じてあげられたらいいのにな……と思ったんです」。
私たちは、子どもの頃からくり返し見せられてきた広告の影響か、風邪を引いたら風邪薬、生理痛には鎮痛剤と、不調には薬で対処することが当たり前のように刷り込まれています。でもそこでふと立ち止まり、「あなたはそのままでいいし、身体にはよくなろうとする力があるんだから、まずは信頼してみませんか?」と、立ち返るきっかけになれれば。香川さんがクラニオセイクラルに興味を持ったのも、そんな思いが背景にあるそうです。
香川さんが医療現場で思い悩む時期に大きな影響を受けたのは、服部みれいさんが編集する雑誌『マーマーマガジン』。冷え取りや布ナプキンの存在を知ったのも、クラニオセイクラルという言葉を認識したのも、この雑誌からでした。
「それまでにもアーユルヴェーダや野口整体などについて勉強したりもしましたが、どれも何となく、自分に合うかどうかがピンと来ていなかったのです。けれど、ある日クラニオセイクラルのワークショップに参加してみたら、あ、これすごい気がするって(笑)、やっと自分に合うものを見つけたという確信が生まれたんです」。
もともと基本的に身体が緊張していて、常に凝った状態だったという香川さん。けれどそのワークショップでは、気持ちがいいほどスコーンと爆睡してしまって、他のセラピーでは感じたことのなかった、深いリラックスと癒しを感じることができたそう。
クラニオセイクラルの大きな特徴は、「悪い部分にフォーカスしない」「ただありのままの姿を観察し、認識する」ということがあります。身体のプロならば、もちろんその人の不調が分からないはずはありません。でもそれを「治そうとは思わずに、施術者と受け手がただ認識して、観察していく。ただそうするだけで、身体は自らほぐれていったり、いい方向へ変化していくというのです。
「師匠からもよく『さしでがましい手をするな』と言われます。私の手が何かを行うのではなく、あくまでその人の身体が行きたい方へ導いていく。今のその身体の状態を、ふたりで共有することが大切なのです」。
少し長くなりましたが、今日のところはここまで。「身体にふれることで、ありのままの姿を観察し認識するセラピー」の詳細は、vol.2に続きます。
第1回「頭も心もとろんとろんになるヘッドマッサージ」はこちらから
Profile
田中のり子
衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。