身体にふれることで、ありのままの姿を観察し認識するセラピー ~今回の先生:「てあてやcokiu」香川夏未さん~ vol.2
聞けば聞くほど、何ともちょっと不思議な、セラピー。さて訪れた香川さんのサロンは、閑静な住宅街のアパートの一室。昭和を感じさせる、どこか懐かしい雰囲気ですが、心地よく整えられ、清らかな空気が漂っている空間です。
セッションは施術用のウエアに着替えて(アジアの自然素材を使い手仕事にこだわった「えみおわす」の、ゆったりとしたウェア)、そののちに問診を行い、まずは足湯からスタート。
足を温めることによって、身体をリラックスさせたのち、ベッドにあおむけに横たわり、薄いタオルケットをかけられます。私はその時点でもう、すっかりくつろいでしまっていたのですが、ふっと香川さんのほうを向くと、私の足のほうですっと立って、何やら気を集中させている様子。これは「グラウディング(=地に足をつける)」という大地と自分をつなげ、しっかりと土台を整える行為で、「施術者の状態がよくなければ、いいセッションはできない」という考えから、毎回必ず行っているそうです。
さていよいよクラニオセイクラルの施術がスタート。まず脚を少し持ち上げ、下肢全体を内側にひねり置く、つまり両足を内股の状態にします。これは腸腰筋(ちょうようきん)という、脊椎と大腿骨を結ぶ筋肉の束をゆるめることによって、副交感神経を働かせ、リラックス状態に持っていくためのスイッチのようなもの。この体勢にしたのちに、足の甲から順番に、腰、胸、肩、首、頭……という順番で、香川さんの手あて=施術は進んでいきます。
……が!!! 大変申し訳ないことに、田中はこのあとの記憶が一切吹き飛んでしまいました……(汗・汗)。時折自分の「フンガ!」といういびきの鼻息でビクッと覚醒するものの、約1時間をかけて施術をしてくださったというのに、あまりの気持ちよさにあっという間に爆睡し、気付いたら施術は終わっていた……という状態だったのでした。
しかしおぼろげな記憶を呼び起こしてみると、香川さんの手は、はじめから終わりまで、「さわられている」というより、「温かなやさしい存在を感じている」というくらいの、かすかで淡い感覚でした(終わったあと、「あの…本当にずっとさわっていたんですか?」と、思わず確認してしまったほど)。とても静かでかすかなんだけれど、どうやら私の身体をとてもていねいに大切に扱ってくれている手がある。そしてその手は、「この部分が悪い」「ここが凝っている」などと、身体の状態を探ったり、良し悪しを判断するような気配がない。実はそれが、とてつもない安心感につながっていたのかもしれない……ということに気付かされたのでした。
思い返すと今まで自分は、整体や鍼灸やマッサージなどで、「腰が悪いね」「冷え症だね」と言われるたびに、「そうなんですよ~私の身体ってばもう、ホントにポンコツで……」と笑っていたのですが、もしかしたら、どうやら心の奥底のどこかで、その言葉に小さく傷ついていたのかもしれない。そして知らず知らずのうちに、自分の身体へのコンプレックスを重ねて、より萎縮させてきたのかもしれない。
けれど香川さんの手は、ただそこにいてくれて、「そのままでいいんだよ」と言ってくれたかのようで、私の心と身体は、それにすごく救われたのかもしれない……そんなことに気付かされたのです。そして心底からリラックスできて、ゆだねられて……結果、爆睡してしまったという訳です(笑)。例えるなら、落ち込んだときに、あれこれ欠点を指摘し、具体的なアドバイスをしてくれる人よりも、ただ静かにほほえんでそばにいてくれる人のほうが、結果的には立ち直りも早く元気も出る……みたいな感じでしょうか。身体って、頭で考えている以上に、正直なのかもしれません。
photo:砂原 文 text:田中のり子
「身体にふれることで、ありのままの姿を観察し認識するセラピー」vol.3に続きます。
第1回「頭も心もとろんとろんになるヘッドマッサージ」はこちらから
Profile
田中のり子
衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。
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