「時間」と引き換えに「手放したもの」「手に入れたもの」 フォトグラファー 亀山ののこさん
自発的であれ、偶発的であれ、人生の舵を大きく切る瞬間が訪れたとき、
それは同時に、何かを「手放す」ことを意味します。
でも、その決断により「時間」を得て、新たな何かを「手に入れる」ことでもありました。
「震災」を機に
「東京」から「福岡」へ移住
手放したもの
プロフェッショナルな仲間と作り上げる仕事
「スタジオの緊張感、ワクワク感、プロが結集する瞬間、大好きな時間でした。
時折寂しくなり、あの現場をまた味わいたいという思いにかられます」
東京の風景
「特に青山近辺が好きでした」。知人の事務所が入っていたマンションの上階から撮った青山の風景。仕事の前後にいつも車で走っていた道などは、今でもよくフラッシュバックするそう。
家族との時間
「東京にいた頃は、近所に父や兄家族が住んでいたので、子どもの成長を見守り合えてよかったなあと。孫の成長の喜びを近くで与えてあげられなかった心残りはありますね」
手に入れたもの
糸島の自然の中での子育て
「徒歩三分で海に行けることや、その海に沈む夕日を見ること、貝やワカメを採って食べたり、子どもと一緒に自然とつながる瞬間を感じる毎日に、これ以上のものはないと思います」と自然の中の子育てを満喫。
広告専門誌『コマーシャルフォト』で業界が注目する100人のフォトグラファーに数年連続で選ばれ、最先端の広告や雑誌で活躍していた亀山ののこさん。双子を出産した翌年に起きた東日本大震災を機に、福岡へと移住しました。
「今ある仕事を失ってしまうかもしれないという思いはありましたが、まずは6か月の息子たちを守りたいという気持ちのほうが強かった。それと同時に、原発に対する問題意識が芽生え、それまでの自分の価値観が大きく変わってしまったんです」
移住して2年後には、福岡市内から車で1時間弱の自然が豊かな糸島に引っ越しました。
「子どもという圧倒的なエネルギー体と向き合えることに心から幸せを感じています。そして、それが今の私の写真にも繋がっているんです」
東京にいた頃は、仕事のときは子どもを保育園に預け、仕事が終わったら子育ての時間、と仕事と子育てが厳密に分かれていたそうです。それが今では「生活の中に仕事も子育てもマーブル模様のように混じり合っている感じかな」と亀山さん。 東京にいた頃のように、スタジオにプロが集結し、一気にひとつのものを作り上げるワクワク感は失ってしまったけれど、移住後は、普段に撮影した写真が仕事に繋がったり、個人の方からのポートレートの撮影依頼が増えたのだそう。
「雑誌やマスメディアだけでなく、一人ひとりにとって意味のある写真に関われる喜びを感じています」
暮らしのおへそ実用シリーズ『時間を、整える』より
text:和田紀子 photo:亀山ののこ
Profile
亀山ののこ
東京都生まれ。2000年よりフリーフォトグラファーとして活動。雑誌、広告分野で主にポートレートと手がける。2010年に双子を出産。2011年8月に福岡に移住。2013年より糸島で家族と共に暮らす。著書に『100人の母たち』(南方新社)がある。
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