一冊の本を売る書店を始めた理由とは? 「森岡書店」店主 森岡督行さん Vol.1
東京・茅場町で10年、写真集や美術書を中心とした古書店とギャラリー「森岡書店」を営んでいた森岡督行さんが、昨年5月に銀座に新たに開いたお店のコンセプトは「一冊の本を売る書店」。1週間で1冊の本だけを置く書店です。
「例えば、古道具の本であれば古道具を、写真集であれば写真を、花の本であれば、花を売るというふうに、本屋さんに本の中身が出現する。言い換えれば、一冊の本から派生する展覧会を行う書店というわけです。もともと茅場町でも、年に何回か出版記念のイベントをしていたのですが、著者を訪ねて知人や友人、読者がやってきて、そこには温かい交流が生まれ、本も売れていく。みんなが幸せなんです。そういう現場に幾度となく立ち会ううち、売る本は一冊だけあればいいのではないかと思うようになったんです」
一冊の本を介して、作り手と買い手が、もっと近い距離感でいられる場所を作りたかったと森岡さんは言います。とはいえ、そのアイデアを実現するのは、そう容易なことではありません。そんなとき、「スープストックトーキョー」を手がける遠山正道さんが森岡さんの考えに賛同して出資してくれることとなり、さらに現在、店舗が入居する建物との出会いがありました。
「私は場所の力を信じているんです。もともと古い建物が好きで、茅場町で古書店を始めたのも、昭和2年竣工のビルとの出会いがきっかけでした。現在の鈴木ビルも、昭和4年竣工の近代建築で、戦中期に名取洋之助が主宰する『日本工房』が入居していたんです。そこでは、日本の文化や近代化を海外に伝える『NIPPON』などの対外宣伝誌が制作されていました。そういう歴史的背景のあるビルだったので、それを受け継ぎたい! と」
『暮らしのおへそvol.21』より text:和田紀子 photo:大沼ショージ
5月4日UPのVol.2に続く
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