身体を土台から整えていく、究極のインソール ~今回の先生:「FOOTWORKS」森健さんvol.3
photo:砂原 文 text:田中のり子
まずは、毎日行う足指のストレッチ。左の足指の間に右手をはさみこみ、左手で拇指球(親指の根本のふくらんだ部分)を押さえ、時計回りに10回、逆に10回。押さえる場所を足の甲のいちばん高い部分、足首、かかととずらしていき、各10回×2を繰り返します。これは足の関節の動きをしなやかにする体操です。足の関節の動きがやわらかくなると、血行もよくなり、インソールの適切な位置に足が収まりやすくなるのです。
「そして田中さんはどうしても腰が右に傾いていて、筋肉も右が強くて、右足から出やすいんです。そして歩幅も右のほうが大きいので、一歩一歩歩くごとに歪んでいるんです。もちろんインソールでも抑えているのですが、自分自身でも左足の使い方を、しっかり意識してください」
歩き出しも左足、階段を上るのも左足から。靴下やパンツをはくのも左から。ものを取るのにも左手を使い、後ろから声をかけられて振り向くときは、右から。とにかく左腰から出るようにするのがいいのだそうです。さらに続いて、衝撃の指導が。
「インソールを使い始めたら、五指ソックスは止めてください。足袋タイプならまだしも、五指ソックスをはくと、どうしても足指同士が開いてしまって、拇指丘と小指丘を結ぶ自然なアーチが崩れ、血行も滞ってしまいます」
ガ、ガ、ガ、ガーーーーーン! 家にいるときは冷え取り靴下を3枚ないし4枚を重ね、外出するときでも、普通の靴下の下に五指ソックスを重ねるという生活を10年以上してきた私には、あまりの衝撃のお言葉。今まで頼りきっていた杖を取り上げられるような、ものすごい不安を覚えました。この不安感、冷え取り経験者ならきっと、お分かりになることでしょう。
「指先がベタッと開いてしまうと、足指にまったく力が入らなくなってしまうんです。指先できちんと蹴ることができると、足首が上手く動かせ、足首が上手く動かせると、ふくらはぎが動く。ふくらはぎというのは、全身の血行を促すポンプの役割をしていることで知られていますが、きちんと足さえ動かせれば、冷え症というものは存在しないんです」
足が動かせれば、冷え症にはならない……! 長年冷えとの戦いに明け暮れてきた私には、爆弾級の衝撃発言。
「靴下を重ねているというのは、冷えているものを外側から温めているだけで、根本の解決にはならないんです。今足を正しい方向に使ってさえいれば、内側から温かくなるので、五指ソックスは必要なくなります」。
確かにこのインソールによるポカポカがあれば、靴下がなくても、何だか大丈夫そうな気がしてきます。折りしも季節は春から初夏へ。気温もぐんぐん上がる時期なので、何だかやれるような気がしてきました。
「分かりました……! 私、頑張ってみます! これからは五指ソックスを重ねるのを止めてみます……!」
このように森さんの指導は、時に厳しく、時にストレートに行われます。それもこれも、すべてはお客さんに「真剣に寄り添う」姿勢があってこそ。その熱意は、しかと私の胸にも届きました。五指ソックスからの卒業……そんな日がやって来ようとは、ほんのちょっと前まで思いもよらないことでした。
興奮が落ち着くと、店内のものたちに、ようやく目を向ける余裕が出てきました。ショーケースや店内に並ぶ、美しい靴たち。これは森さんがデザイン・設計を行い、試作を重ね、実用化まで、何と7年という月日が費やされたというシューズです。インソールの効果を最大限に引き出す造りで、ソールがやわらかく、しなやかな履き心地が特徴とのこと。インソールをオーダーした方のみが購入できるものだそうです。
そしてグラインダーの奥のキャビネットには、森さんが好きで、長年集めているという器類が飾られていました。1800年代後半に作られた、フランスのアンティークのキャンドルスタンドや、イギリスの陶芸家であるスティーブ・ハリソンの器、ガラス作家のピーター・アイビーの器などです。
その美しいフォルムをじっと眺めていると、森さんの視線の先には、人の身体もまた、美しいものとして写っているのだろうな、さまざまな不調を乗り越え、その美しい姿へと導くために、この仕事を続けているのではないかな……そんな想像が広がっていきました。
診断から測定、インソールの作成と足のケア指導。これでおよそ1時間。何と濃密な時間でしょう。インソールの効果はしばらくはき続けることによって分かってくるので、作成直後の今は、ただただ気持ちがいいという感想が先走り、結果の良し悪しを語る段階ではありません。けれどこのインソールを作ることによって、自分の身体や姿勢、足の使い方などを改めて深く、新たな目で見つめ直すことができました。そして「私の身体は、もっともっとよくなるのかもしれない」という希望が、しっかりと胸に刻み込まれたのは、何にも代えがたい貴重な経験だったのでした。
※インソールの印象は、あくまで個人的な感想であることをご了承ください。
※「冷え取り健康法」における絹の五指ソックスおよび靴下の重ね履きには、単に足を温めるだけでなく、足裏から出る毒素を吸収・排出するという効果もあります。筆者自身もその効果を実感してきましたので、この健康法を否定する気持ちは一切ありません。今回はインソールの効果をより実感するために、五指ソックスを手放してみるという選択をしてみました。
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http://www.footworks-tokyo.com/
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2回目以降の調整 3,240~
Profile
田中のり子
衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。